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トム・ストッパード (1) コースト・オブ・ユートピア――ユートピアの岸へ(ハヤカワ演劇文庫 26)

価格: ¥1,575
カテゴリ: 文庫
ブランド: 早川書房
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ストッパードによる「ゲルツェン入門」書 ★★★★★
この劇を知ったのは、ロンドン初演当時の「ニューズ・ウィーク」日本版の記事であった。
以前から、アイザイア・バーリンを通じてゲルツェンには注目しており、彼が主人公であるということで興味をもった。
その後、まさか日本で翻訳公演がされるとは思ってもいなかったので、昨年9月の公演はうれしい驚きであった。
1日9時間ぶっ通しでなく、3時間ごと3日連続の公演で何とか観ることができた。
昨年末のNHKBShiでの9時間一挙放映も、HDに無事録画、そして、今年になってからの本書刊行と続いた。
この邦訳版では省かれているが、原書の「Acknowledgments」で明らかなように、この戯曲は、そのメインの部分をバーリンとE・H・カーの著作に負っている。
第1部の主要人物バクーニンは、第2部・第3部ではやや狂言回し的な役割へと後退し、第1部ではほんのわずかしか登場しないゲルツェンが、第2部・第3部の中心人物となる。ほかにベリンスキーとツルゲーネフが印象的である。
ゲルツェンの台詞には、彼の膨大な著作からなまの文章も使われているので、ゲルツェン入門にもいい。

「前へ進むこと。楽園の岸に上陸することはないのだと知ること。それでも前へ進むこと。(略)丸が四角になる社会。葛藤が帳消しになる社会。そんな場所はどこにもない。ユートピアとはそういう場所の名前なんだ。だから我々は、そこへ向かって殺戮を続けるのをやめる日まで、人間として成長することはない。我々の意味は、不完全な世界を、我々の時代を、いかに生きるかにある。ほかにはない。」(590〜591頁)

いわゆる左翼とか、市民を称する陣営の人びとのうちどれだけの部分が、この演劇を観、評価したのかは知る由もないが、評者が感じたかぎりではほとんど存在さえ知られなかったのではないかと思う。
ユートピアの断念というゲルツェン思想の根幹は、いまだに「もう一つの世界」が可能だと信じ込んでいる昔ながらの左翼諸君にこそ味わってもらいたいものである。
再来年が確か生誕200年、日本でももっと知られてほしい人物の一人と言える。
ユートピアの岸へ ★★★★★
 チェコ出身で英国劇作家トム・ストッパードによる大作。否、これはもはや叙事詩ともいうべき書物である。
時は19世紀、ロシア知識人たちの革命を巡る理想・苦悩・友情を描く。
 無政府主義者バクーニン、思想家・空想的社会主義者ゲルツェン、文芸批評家ベリンスキー、詩人・革命家オガリョーフ、小説家ツルゲーネフ、哲学者スタンケーヴィチなど個性豊かな登場人物。
構成は三つに分かれて、第一部:VOYAGE「船出」、第二部:SHIPWRECK「難破」、第三部:SALVAGE「漂着」。
英本国のみならず日本でも公演され三日間という驚異の演目ながら、好評を得たようである。
圧倒的なストーリーを飽きさせずに物語を展開しているのは、演出家に敬意を表しつつも、やはり脚本家の力によるところが大きいと言えるだろう。

 物語の中で繰り広げられるスラブ派と西欧派の対立や旧体制派と急進派の相克は登場人物の迫力をもって我々を魅了する。重要な登場人物であるゲルツェンはナロードニキ主義の創始者とされる。彼の思想は、農民を農奴解放の客体としてだけでなく社会主義理想の主体として捉えている。
また、この本の下敷きとなっているのが、ゲルツェンの回想記的自伝「過去と思索」で、社会思想史上非常に重要な文献である。
 本書は早川書房の演劇文庫として迎いれられ、多くの人が手にし愉しめることになった。作者自身も迫害を逃れ世界を渡り歩いた事を考えると、本作品の意義は演劇界に止まらず、現代の世相を考え生き抜く上でも、たいへん大きな足跡である。
 少なくとも歴史的背景と思想の系譜を知っていなければ物語の面白さは伝わりにくいように思う。ましてやロシアの知識人の深さと歴史をや。
したがって、読み手(或いは観劇者)は真の知性を求められる。
豊穣なるユートピア(楽園)はやすやすと手に入らない証左であろう。