トルストイ入門への最適書
★★★★★
藤沼氏は日本トルストイ協会の会長であり、本書もさすがと思うような内容である。特に、トルストイを教育と結びつける観点はユニークであり大変興味深い。トルストイは一般的に、最初は凄い本を書いていたが、あとから変な説教をはじめた人、とどちらかといえばネガティブなイメージのある人だが、トルストイは思想ありきの人で、芸術は思想の手段、という側面は否定できない。だからトルストイの思想と芸術性を分けるのはトルストイ理解を遠ざけるのだが、藤沼氏はロシア文学者では非常に珍しい、その点を理解しておられる人である。
導入から上級者まで納得の、平易で分かりやすい本である。
ただし上級者へ。トルストイはルソー、カント、ショーペンハウエル等哲学者から影響を受けているし、キリスト教(専門家によってはグノーシス派をかんじる人もいるらしい)から道教、仏教まで幅広い展開を見せている。本書からさらに、その様な広範な知識を追求して欲しい。