才人達と付き合える喜びと葛藤
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私は三遊亭円朝の伝記小説「円朝」(河出文庫)で小島政二郎という作家を初めて知り、
さらに松岡正剛氏の「千夜千冊」によると小島政二郎という人は「ダンディな爺さんだった」らしく、
少し興味を持ち本書を手に取った。
著者が芥川竜之介や菊池寛らと友達付合い出来るのが嬉しくてたまらない半面、
いつまで経っても彼らのように小説が書けないという心の焦りや、
彼らとの交流の中で文学に対するこだわりが変遷していく様が見事に描かれている。
しかし本書で興味深い所は何と言っても芥川や菊池についての才人ぶりを窺わせる
様々なエピソードであり、こういう人達が身近にいたら著者が自信を失ってしまうのも当然だと
納得せずにはいられない。
著者は本書の中で「私は文学志望の身でありながら思想を持たなかった。
思想を持たない文学者ーこれこそ私の致命傷だと思っていた。」と書いているが、
本書自体には著者の文学論や芸術論がしっかり詰っている。
現在、著者の作品の多くが絶版になってしまっているのはとても残念。
日本人の手になる自伝の傑作の一
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カバー惹句には「自伝的長編小説」と記されているが、どうしてこれは最早立派な、しかも飛びっきりの、一日本人の「自伝」そのものであろう。菊池寛や芥川龍之介の素顔や彼らとの親交を語る著者の筆は実に生き生きとしており、『福翁自伝』などと比べても遜色のない面白さであった。
内容的には、鈴木三重吉のDV振り(115頁以下)や菊池寛のジアール過剰摂取による昏睡事件(177頁)、関東大震災時における芥川の「日本はこの際、文化が余りに中央集権的であり過ぎたことを反省すべきだと思うね。ドイツ聯邦のように、それぞれの地方に、それぞれの地方特有の文化を建設するように、政府が率先して奨励するいい機会だと僕は思うな。日本も、江戸時代まではそうだったんだからね」(241頁)という発言などの挿話が、大変印象に残った。
「成功は、我々にとって重大なことではない。真に偉大であることが重大なことであ」る(252頁)。