真摯な三島由紀夫の姿
★★★★★
晩年の三島由紀夫を振り返る本の中では、自衛隊の体験入隊や楯の会についてとかく理解不能な書き方をしたり、揶揄したり、文学者からどんどん離れていく姿を寂しがったりするものが多いですが、本書は、三島が一縷の望みを託した自衛隊の側、つまり人質になった益田兼利総監や体験入隊で寝食を共にした自衛官の側から、三島事件とは何だったのかを見つめていて、一読の価値がありました。
体験入隊時に三島の世話係をした菊地勝夫氏というのが、三島の死の直前にたびたび口にしてきた「信頼に足る自衛官」なのかなと思いながら、頁をめくりました。三島がそう語った期待を受けたのか、菊地氏もまた、文学関係の評論からは未だかつて見えてこなかった、三島の真摯な姿を披露して、興味深い。また、何故人質が益田総監でなければならなかったのかという理由も、新たに紹介されたエピソードとともに鮮やかに解明されていき、何度も「そうだったのか」と驚かされました。三島事件は結局その後の日本を変えることはなかったけれど、日本が敗戦から現在まで抱えている問題を孕んでいたことは、本書の中から生々しく伝わってきます。三島は晩年、そうした問題に悩み、あの事件はそうした問題に体ごとぶつかった、意外にも真摯で純粋な行動だったということに気づかされる一冊です。