ジェリ・アレンの、たぶん6年ぶりの新作は、このデジョネットとデイブ・ホランドとのトリオ作(ブラスの入った最後の1曲を除く)。結論をいえば、ジェリ久々の好アルバムとなった。硬軟自在なリズムがつくる空間に、ジェリのピアノがリリカルに、パーカッシブに綴られていく。「こんなに音がきれいなピアニストだったか」というのが、ファースト・インプレッション(録音も抜群だ)。独特の少しずれたタイム感覚も健在である。
しかし、なにかが物足りない。旧作のチャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンとのトリオ(「In the Year of Dragon」「Segments」)のときに放っていた妖気とか衒気が感じられないのである。ジェリの技術は見違えるほど向上し、ドラムもベースもテクでは本作が上なのに、音楽の魅力ではかなわない(私見だけど、そう思う人は多いのでは)。つくづくジャズは不思議な音楽だと思う。
願わくば、現在のジェリとヘイデン、モチアンのトリオを聴いてみたいもの。デジョネットはキースとやる方がずっとかっこいいから……。
蛇足ながら、ジェリのつくる曲はいささか単調である。そのためか、本作では3、7、11のスタンダード曲が魅力的だった。次作はスタンダードアルバム(オーネット・コールマンの曲なども入れた広い意味での)も一興だと思う。