ハーンの演奏には崇高さと節度がある。そのため、「モダン」な響きとヴィブラートにもかかわらず、サウンドはクラシカルで自然な清潔さを感じさせる。これとは対照的に、オーケストラのサウンドは美しいがあきれるほどに派手で、どうにも場違いな感じだ。が、2人の優秀な共演者とハーンの息はぴったりで、音色もスタイルも相性抜群。比較的なじみの薄い曲である「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」は、とりわけ見事な演奏となった。
音楽に対する真摯で思慮深い取り組み方とは裏腹に、残念ながらハーンは「指がついていく限り速く弾く」という今日の演奏家たちのトレンド(おそらくジェット時代を反映したもの)に流されてしまっている。速い楽章はものすごいスピードで演奏されるため、楽曲の持つ優雅さ、品格、魅力が台無しになり、わざとらしいアクセントや、攻撃的でやたらと気ぜわしい弾き方ばかりが目立ってしまう。品位に欠ける演奏家ならば、単に器用さを誇示したいだけと思われかねないところだ。しかし、緩徐楽章になると、ハーンの音楽性、表現力、バッハに対する思い入れ(ソニーから無伴奏ヴァイオリン曲集『Hilary Hahn Plays Bach』もリリースしている)がハッキリと現れる。穏かでゆったりとした演奏は、音形を注意深く描き出しており、豊かな情感をたたえ、どこまでも美しい。(Edith Eisler, Amazon.com)