まさにチェロ・フェイヴァリッツ!
★★★★★
一見支離滅裂な選曲だが、通して聴いてみるとこれが予想外にいいのだ。それぞれの曲が、このアルバムのために用意されたかのような、錯覚さえ起こしてしまうほどだ。いい意味で上質なロックやポップスのアルバムのように、練りに練られた選曲と絶妙な配置なのだ。1曲目のアイルランド民謡「サリー・ガーデン」からラストの聖歌「アメイジング・グレイス」までの間に、バッハ、ドヴォルザーク、フォーレ、サン・サーンス、ショパン、シューマン、ラフマニノフの名曲が並ぶ。特に、2曲目にバッハの「無伴奏チェロ」をもってきたところなど、ぶったまげてしまった。アイルランド民謡からバッハに繋ぐなんて何と大胆不敵な選曲(もしかしたら何も考えていないのかも。「無伴奏チェロ」は、遠藤さんがやりたいっていったのかもしれないな)。
その「無伴奏チェロ」だが、とても速い奏法でぐいぐい弾いていく。かといってテクニックだけの潤いのないものではない。変な思い込みを排除した、遠藤真理ならではの明るく楽しい響きなのだ。無伴奏チェロが大好きで大好きで仕方がないといったような、彼女の気持ちが自然に表れているように思えた(もちろんこれは想像ですが)。
因みに、私の所有しているその他のCDと演奏時間を比較してみた。一番速かったのが、古典的名盤、パブロカルザス(1938年録音)の16分5秒だ。遠藤真理は第2位の17分37秒。3位はヨーヨーマ(1996年録音)の18分54秒。一番遅かったのがピエール・ビルスマ(1976年録音)の19分7秒だった。私の持っているCDだけでの比較なので、はっきりとしたことがいえないが、彼女の演奏がかなり速い部類に入ることは間違いない。営業的に難しいかもしれないが、遠藤真理さんに「無伴奏チェロ組曲(全曲)」を録音してほしいと心から思ってしまった。実現したら、ぼくは買います!