名著復刊
★★★★★
初版以来長く入手困難であったものが20年の時を経て,
ようやく第2刷が世に出ることになったことを喜びたい.
独立して書かれた10編の論文を異なる訳者が翻訳したもの.
第3,9論文を除けば翻訳は概ね読みやすい.
とりわけ第2論文の内容は注目に値する.私見によれば
個人的自由にとって「結社の自由」が「私有財産制度」と共に
もっとも重要な基盤となることをこれほどまでに明晰に述べた
論文はないのではないだろうか.
忙しい現代人にとって10編すべてを読むのは大変だろうから
表題となった「政治における合理主義」とともに
「自由の政治経済学」「保守的であるということ」の3編を
読むだけでも学ぶところ大であろう.
理性盲信への戒め
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オークショットの論文集。
表題作をはじめとして、オークショットの思想がよく伝わってくる。
オークショットの主張を一言でまとめるならば「理性を盲信するな」ということになるだろう。
知には技術知と実践知がある。
技術知は、教科書などで学べるような知識を指す。
実践知は、本で学ぶことは出来ず、ただ実際に修行したり経験をつんだりすることで身につけられるものを指す。
デカルトやベーコンなどの合理主義は、知は技術知のみであるとしてしまう。
しかも、実践知につながりそうなものは片端から否定して壊そうとする。
しかし、知は技術知と実践知の両方で成り立つものであり、実践知を欠いたままでは知は立ち行かないものだ。
政治においても合理主義がはびこっているが、政治においても実践知は非常に重要だ。
政治が未経験のものに政治をゆだねても、政治はうまく行かないのだ。
そして、変革をするにしても、それは急進的であるよりも、漸進的であるほうが望ましい。
理性を盲信して突っ走るのではなく、身近なものに愛着を持つべきなのだ。
今日もなお合理主義は世で幅を利かせている。
本書は、そのような中で、実践と経験の重要性を思い起こさせてくれるものだろう。
保守主義入門
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一つの究極目的に結び付けられた人間集団によって築かれたバベルの塔は、究極目的の実現に伴う分け前に与ろうとした結果、跡形もなく崩れ去ってしまう。その後に残ったものといえば「墓場の平和」と永遠の沈黙だけだった。つまりバベルの塔のような気の遠くなる事業を行うためには単一の言語を必要とし、それ以外の言葉は駆逐されることになるだろう。「・・・ある一つの声による独占体制が確立されると、それ以外の声が聞かれがたくなるだけではなく、それ以外の声が聞かれてはならないという主張があたかも正当なものであるかのように思われてくることになるだろう。つまりそれ以外の声は、たんに有意性の欠如にとどまらず有罪判決を下されることになるのである。」(『保守的であること』p219)われわれの自由にとって必要なことはそのような目的に縛られた記号的な言語の遣り取りのみにあるのではなく、むしろ「人類の会話における詩の声」なのではないだろうか。