本書は聖骸布投影の技術的方法やその歴史を丹念に記載してあり、また100年に数回しか公開しない(あるいは出来ない)と言う神秘さも手伝って、ミステリー感をあおると思いきや、緻密な仮説⇒実証⇒検証の連続で、いたずらにドラマトゥルギーをあおるわけではなく、冷静な思考と客観性で問題等を解決してゆく。しかし、その端整さが逆に大変なドラマトゥルギー性をかもし出している稀有な書である。
多くの『イエスの謎本』とは違って、淡々と文章が進んで行くので、中だるみ感や飽和感があるのは否めないが、読後感の感慨はひとしおだ。そして、レオナルドを動かした動機をも少しは垣間見ることが出来、それ以上にますますレオナルドを知りたくなるのである。
私も実際にこのトリノ大聖堂を訪れた事があるが、歴史を感じさせる赤レンガで造られ、街の片隅にひっそりと佇む、聖骸布を保管するに大変ふさわしい建物である。しかし、大聖堂とは名ばかりで、ゴシック建築の教会に見られるきらびやかさは皆無。どちらかと言うと陰湿さが漂うが、これがますます聖骸布の謎を深めるのである。
本書は名著である。それゆえに、とっつきにくい部分もあるが、是非最後まで読んで欲しい。多くの横槍や脅迫に打ち勝った著者らの研究チームの魂の一冊で、その息吹が感じられるのだ。