はたらくオッサン劇場的な
★★★★★
作者の弟が小さい頃、力士を見て
「あれ人間なの?」と言うエピソードがありました
犬、猫のように「相撲」という生物がいるのだと思っていたそうです
今の角界にも山本山のような訳の分からない生物がいますよね
けっこう面白いエピソードなんですが、よく考えると異形の人間を嗤うような意識があります
気持ちのいい面白さではない
そんな笑っていいのか分からない話がいっぱい載っている本です
「人生に絶対の価値観を置いていない点」が良い
★★★★☆
私は娯楽作家としての阿佐田哲也氏の大ファンなのだが、色川氏の作品は何となく敬遠していた。阿佐田氏ではなく色川氏に直木賞が行った事が不満だったのだ。しかし、もっと早く読めば良かった。
「怪しい」と言うよりは、自身の戦争体験記や不遇に終った勝負師・芸人や社会の片隅で生きる知人達の有様を纏めたものだが、全体として昭和初・中期の世相(特に大衆芸能)を記録して置きたいと言う意図もあったと思う。自身も若い頃勝負師として生きた色川氏には社会の裏側で生きているとの自覚が強く、その分、登場人物への同情と愁いの色が濃い。特に、「したいことはできなくて」は著者の人生を主人公のそれと重ね合わせて悲壮感が漂う。一方では、ユーモア溢れる語り口を用いる等、自在の筆運びである。何より読者の共感を呼ぶのは、人生に絶対の価値観を置いていない点で、これも人生、あれも人生と、良い意味での開き直りを見せている。著者は「自然児」と自称しているが。その分、人生の機微が見事に描き出されている。例えば、「とんがれ...」は起承転結が巧みで、短編小説のよう。"存在"に意味を持たせず、人生の定理と捉えている点も印象深い。互助の否定と寛大の勧めも胸に残る。
本作中で一番「怪しい」のは冥界を背負っているかのような著者自身なのだが、その著者が枯淡と描く様々な人々の姿は読む者の人生観を揺さぶるものがある。やはり、色川氏の書く物も面白いと認識させられた。
恐ろしく、濃密な空間
★★★★★
これほど濃密な本は他にはない。そう思わせる書物です。
「右向け右」は戦時中とはいえおそらく他者とはまったく違う空間を生きた青年の世界がおどろおどろしくも美しい。
この体験記エッセイは絶対に誰にも真似はできないでしょう。
「墓」では冒頭からいきなり「亡くなった叔父」が訪ねてくるというところから書き出されます。
単なるナルコプkじゃレシーなどではかたづけられない彼と彼の一族の物語。
在るとはどういうことなのか。
違う世界を覗き込んでみたい方におすすめです。
やさしい視線
★★★★★
この本を読んで感じることは、奇怪なもの、醜悪なものに対する著者の優しい、受容的なまなざしである。このまなざしは、恐らく、著者自身が、自らを醜悪なものの一人とみなしているところから生まれるのであろう。つきつめてみれば、人間は皆醜なものなのだ。自分の中にある醜悪さに感づいている人には、お勧めの本である。
この本にであったのは、今から20年ぐらい前のことだ。それ以来、折りに触れては、この本が読みたくなる。良書である。
ぎりぎりの小説
★★★★★
ここに出てくるのは、あるいは作者も含めて、
みんなどこか屈折してしまったひとばかり。
いろんなものがいっぱいに溢れちゃってて、
心の表面張力ぎりぎりって感じになってて、
もうほんのちょっとの加減でこぼれそうなんだけど、
まあ、なかにはこぼれてしまったひともいるんだけど、
それでも、ぎりぎりのところで、生きてる。
あるいは、生きてた。
そうだよな、それだよな、文学って、と思った。