鴎外の娘、文才は未だし。
★★☆☆☆
森鴎外の娘による身辺雑記。とりたてて取り上げる作品はない。一、二上げるとすれば、戦時中、すでに老年に達し気難しいことで有名な荷風散人を訪ねたところ意外にも歓待を受けたという話と鴎外の短編『カズイスチカ』を紹介しているあたりか。とうてい姉の茉莉の文才には及ぶべくもない。中勘助の詩の鑑賞に僅かに鴎外の遺伝子の片鱗をのぞかせているばかりか。もちろん作者の人柄の良さや謙虚な姿勢、誠実さは行間から伝わって来る。最後に一言、鴎外は作者をアンヌコと呼んで優しく接していたようだ。そこが妻や娘に生の感情をぶつけていた漱石とは違う。