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ある婦人の肖像 (上) (岩波文庫)

価格: ¥840
カテゴリ: 文庫
ブランド: 岩波書店
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恋愛を通じてヨーロッパ文明の様々な試練に耐え、成長してゆくアメリカ娘イザベルを鮮やかに描き出すジェイムズの代表作。全3冊
ヘンリー・ジェイムズ入門 ★★★★★
1881年に発刊されたというから日本では明治14年。まだ「経国美談」の時代ですよ。世界では「小説」はすでに全盛期であり、ここから現代小説まであと一歩という過渡期のすばらしい小説です。ヘンリー・ジェイムズ初期の傑作。ジェーン・カンピオン監督、ニコール・キッドマン主演で映画にもなっていますがレンタルビデオ屋では見かけないのが残念です(最近のレンタルビデオ屋の偏った品揃えは映画への冒涜だという一例)。

アメリカで育ったイザベルは才気溢れる美しい女性だが貧困に直面していた。そこへイギリスに住む金持ちの親戚が現われて人生が大きく変わっていく、、、という話。作家の後期の作品「金色の盃」「鳩の翼」「大使たち」と同じく、アメリカとヨーロッパ、代理と真実、策略をめぐらす者たちと無垢な若い男女、恋愛と金銭といった主題が扱われつつ、ストーリーも心理描写もすっきりしていて、他の作品より断然読みやすい。ヘンリー・ジェイムズはここから入るべき入門編です。

「自分の目で世界を見たい」という強烈な思いを抱く主人公イザベルは自分の考えにこだわって周囲に波紋を広げていくが、実は大人たちの手の中で踊らされていた。単純な教養小説(主人公の成長)でないだけではなく、それが裏切られて復讐するという話でもないのがすばらしい。若い女性の主体性などなかった当時において、いかに自分の主体性を確保するのかを常に考えている主人公。「あなたはこういう人だ」「こうするべきだ」といった周囲の決めつけを、それが愛する人からであってもはねつけていく力強さ。アメリカ人でもヨーロッパ人でもない「私」を作り上げようとする若き女性の試行錯誤が気持ちいい。必読。
おすすめ ★★★★☆
洗練さの中に腐敗の影を潜ませるヨーロッパ人と、純粋だが単純なアメリカ人との衝突を描く。これは心理主義小説の先駆者ヘンリー・ジェイムズに一貫して見られるテーマだ。聡明だが無垢なアメリカ人イザベルが生涯にたった一度の大きな間違いを犯してしまうが、自らの決断に最後まで責任を取ろうとする。それは束縛状態に戻ることを意味するが、その道を選んだのは彼女自身の意志なのだから、イザベルは決して翼のもげた鳥ではない。
イザベルの従兄ラルフがすごくいい味を出している。イザベルには彼と結婚してほしかったけど、二人の愛の告白が最後に聞けたんでよかった。
言葉で描く一枚の肖像 ★★★★★
19世紀アメリカ文学を代表するヘンリー・ジェイムズの初期の代表作。
ジェイムズの小説の主要なテーマである、ヨーロッパの文化(成熟、経験、退廃)とアメリカの文化(未成熟、未経験、無垢)の対比を軸にヨーロッパの美しい舞台のもと、将来に希望を馳せる無垢なアメリカ人女性、イザベルの人生が緻密に描かれていく。

作者の視点はどの登場人物からも一歩離れ、彼らの思考、感情、表情を細かく描写している。そのため読者はまるで映画のカメラを通して見るような形でイザベルの人生を眺めることになる。まさに言葉で描かれた一人の女性の「肖像」なのである。

ヨーロッパの文化とアメリカの文化の対比と述べたが、厳密にはアメリカ人としての純粋さをなくし、経験の故にずる賢くなったヨーロッパ在住のアメリカ人の中で、ヨーロッパを自分の目で見てみたいという強い希望を持ってやって来た若く聡明なアメリカ人女性が騙され、打ちのめされながらも、必死に自分の信じているものを守り貫こうとする物語となっている。しかし、単純にヨーロッパが悪で、アメリカが善という図式で成り立っている訳ではない。

才気に溢れ魅力的なイザベルが自分の判断力を信じ、自らの人生を選び取って幸せになれるはずであったのだが、自分の判断力を過大評価し、周りの意見や忠告にも耳を貸さない頑なさが災いして、思いもよらなかった運命に巻き込まれていく。気が付かぬうちに、確かにヨーロッパ化したアメリカ人の策略にはめられてしまうのだが、結局、これはイザベル自身が選んだ結果であり、周りの意見を聞いて、考慮することができたとしたら、防げたかもしれない運命なのである。

また、ヨーロッパ化したアメリカ人にもどことなく喪失感が漂っており、祖国にもヨーロッパにも完全に根を生やせなくなってしまった空虚さが、彼らの人物像に深みを与えているのである。

作者はイザベルを単に悲劇のヒロインとしてその人生を描くのではなく、ある一人の女性の心の襞を丁寧に描いて、一枚の「肖像を」作り上げている。

読者はその「肖像」を自分の好きな角度で鑑賞できる魅力がこの作品にはあると思う。私は、挫折をしながらも不器用なまでにの信念を通そうとするイザベルの生き方が好きである。自分で選んだことに対して責任を持つということを彼女は放棄することをしない。

自分だったら同じ生き方はできないかもしれない、そう思いつつ彼女の生き方から目が離せなかった。是非一度手に取って、自分がイザベルだったらどうするかを想像する楽しみを味わっていただきたい。