ありがとうボネガット!!
★★★★☆
岡本喜八監督の戦争映画「肉弾」は、
この本に共感を覚えて制作されたのでしょうか?
「そういうものだ」
というようなセリフが、あちこちで使われ、
中身もユーモラスで奇天烈な、それでいて熱い反戦映画です。
興味ある方は是非観て欲しい!!
文体の形だけ真似した作家より、岡本監督のほうが
ずっとこの作品に近いテイスト・精神性を出しています。
反戦というのは年齢ではなく、
結局経験なのですね。
悲しいかな、戦災にそれほど苦しまなかった人は、
同年代で従軍・罹災していても、
ボネガットのようには考えない。
「そういうものだ」
で済みませんねえ!!
単純・直接に語ればこぼれてしまう感情を
奇天烈な手法で焼き付けようとした、傑作!!
別の道から同じ場所へ
★★★★☆
上手く喉元を通り過ぎてくれない作品に対しては、いつも攻撃的解釈を試みる。
何年か後に読めば、今とはまた違った、もっとふさわしい解釈をするのであろう。
だがそれまでの間忘れないためにも、今ここで、ちょっと無茶をしておくのが良い。
「そういうものだ」というスタンスが繰り返し出てくる。
ヴォネガットは明らかに、このスタンスに価値を見出している。
そして、その価値を伝え、理解してもらい、共感してもらいたがっている。
彼自身は、諦念や失望によってそこに漂着したのかもしれない。
しかしそこに至る道は、そのようなネガティブな一本道だけではないはずだ。
ヴォネガットは本作で、そこに至るための別の道を用意したのだと、ボクは考える。
その道こそ、「トラルファマドール的感覚」の道だ。
SF的な思考実験が、知的好奇心を喚起する。
痙攣的時間旅行者の物語が、その感覚を娯楽的に描いて見せる。
この道は、誰かの絶望的な死や、不毛な残酷戦争を必要とはしていない。
にもかかわらず、ちゃんと「そういうものだ」へと至るように経路は設定されている。
まあ実際には、本作には戦争の描写も多い。
それが「生き残った者」ヴォネガットの動機の一つであるのだから、しょうがない。
だが、だからと言って、本作は単純な「反戦小説」には見えない。
むしろ、戦争に対して、どこか超然としてその価値を認めている。
かと言ってむろん、それは戦争の積極的な肯定とも異なっている。
いうなれば、「超戦争的小説」とでもなろうか。
戦争という、昔馴染みの方法論の価値は認めながらも、それを「乗り超える」ための小説。
戦争を繰り返さずに、戦争を通り抜けた後に至る場所「そういうものだ」まで、人々を導く小説。
その場所から振り返れば、戦争とは、劣悪で愚昧な方法論としか映らないのではないか。
(巻き戻される戦争映画の美しさは、まさにこの逆転的ヴィジョンを暗示するものではなかろうか。)
優しいヴォネガットは、子供たちに戦争を通過しない別ルートの地図を残したのではないか?
スローターハウス5 - 繊細な小説でした
★★★★☆
けいれん的な時間旅行をする兵士が体験した第二次世界大戦の物語。
構成や文章がとても繊細で、ガラス細工のような小説だと思いました。
著者の他の作品も読んでみようと思います。
ヴォネガットの「諦観と人間観」
★★★★★
けいれん的時間旅行者ビリーは自分の人生のそれぞれの瞬間へタイムスリップする。ドイツ軍の捕虜になったとき、幸せな結婚生活、自分を拉致した異星人のUFOの中に、晩年、そしてドレスデン爆撃とその後。SF小説の皮をかぶった反戦小説とかるく構えていましたが、そんな程度のものじゃありませんでした。むしろ直接、反戦をうったえるような文章は一つもありません。
第二次世界大戦を、13万人以上が亡くなったドレスデン爆撃(著者のヴォネガット自身もこの空爆を体験している)を、そしてその後のさまざまな死をひたすらに「そういうものだ」と受け止めています。また過去・現在・未来の出来損ないのどうしようもない人間を冷たく突き放すのではなく、黒いユーモアを交えつつ、抑制のきいた文章で細かく丁寧に描いているところがすごく好みに合いました。
レビューを書いてもこの本の面白さを伝えられる気がしません。ヴォネガットの著作全部読みたくなりました。
ヴォネガットさん、あなたのあらゆる瞬間は不滅です。
★★★★★
本作は60年代アメリカを代表する傑作小説。作者が第二次世界大戦で捕虜として体験した辛酸、そして味方である連合軍のドレスデン無差別爆撃に向き合う。しかし、戦争による暴力・破壊と死を前にしては、運命を受け入れざるをえないのだろう。そこで繰り返されるのが、有名な「そういうものだ」(So it goes.)。本書のこの言葉ほど、哀切でかつ諦念を感じさせる名文句はあるだろうか。主人公は時間旅行を繰り返し、自分を誘拐したトラルファマドール星人との交流を通じて、死者は現在具合の悪い状態にあるが、宇宙の破滅に至る時間の流れの中の他の多くの瞬間には良好な状態にあるのだという。人生の半ばを過ぎた(だろう)私も死を恐れずにすみそうである。考えてみれば、作者の死後もこうして著書を繰り返し読めるのも何とトラルファマドール的であることか。
宇宙人が地球に贈る新しい福音書等、作家キルゴア・トラウトのSF小説の粗筋が現実世界をおかしく風刺しており、小説中のミニ小説になっている点は前作「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを」に共通する。そう、本作ではトラウトを始めとする過去の名作の登場人物(「母なる夜」のハワード・W・キャンベル・ジュニア等)が勢揃いするのが楽しい。
本作で涙が出るほど美しい場面は、主人公ビリーが深夜映画で空襲を逆向きに見る場面。火災が縮小して円筒形容器に収まり、回収・解体され、鉱物が地中深く埋められる。こんなに幻想的かつ感動的な反戦のメッセージを私は他に知らない。もっとも、本書は運命の受容に関する最良の処方箋であって、反戦が主眼の本ではないが。
最後に、他のレビュアーが指摘しているように、映画も隠れた傑作。グレン・グールドのバッハがこれほどぴったりの作品は他にない。それでは、プーティーウィッ?