政治的・経済的に存在感を増すイスラム世界とどう関わるか
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グローバリゼーションは今や身近なものとして根付き、賛成とか反対とか唱えるレベルのものではなくなりました。良い面も悪い面も、グローバル化の及ぼす影響が世界中に波及するのは必然です。しかしそうした現実を無視して、グローバリゼーションはアメリカ一国に利益を集中させる全体主義だとか、世界金融危機を契機にアメリカの金融資本主義は終焉に向かうとかいう極めて馬鹿げた考えが、イスラム世界等からよく聞こえてきます。しかし本当にグローバリゼーションはそのように過小評価すべきものでしょうか?
グローバリゼーションは中国やインドの経済を飛躍的に発展させ、多くの貧困国を新興工業国に押し上げましたが、イスラム世界はその最たるものです。トルコ企業やドバイの政府系ファンドによる米国事業の買収、欧米印の銀行によるイスラム金融商品の広まり、ハラル事業やイスラムファッションの広まり等を見る限り、グローバル化は欧米とイスラム世界の双方向に着実に根付き、イスラム世界にも多くの恩恵をもたらしています。
一方グローバル化の中で、イスラム世界の悪い面も目立ちつつあります。イスラム教からの改宗者への更正や再教育の強要、異教徒へのイスラム式慣習や葬儀の強要、スーダン政府への肩入れや宗教的迫害・宗教格差の助長、テロや名誉殺人の広がり等はいずれも、イスラムを絶対視し、非イスラムの価値観を軽んじる姿勢から起こる現象だと言えます。
グローバル化によって新興工業国の存在感が確実に増した現在、良い面でも悪い面でも、個人や企業や政府がイスラム世界と向き合わねばならない流れは、今後も一層深化するでしょう。イスラム世界の良い面が幅広く認知され、悪い面が押さえられるように、日本や欧米は今後イスラム世界とどう関わればよいのか。仕事や旅行や文化交流などで、イスラム世界と関わる多くの人に、本書は様々な視座を提供してくれると思います。