まだ粗削りだが、園監督の評価を決定付けた作品。
★★★☆☆
本作の撮影は2001年の5月に行われている。世界が変わった「911」の5カ月ほど前だ。新宿駅は撮影許可が下りず(まあ54人の集団自殺なんて撮らせる訳もないが・・・)、新宿駅構内ゲリラ撮りと別の駅での撮影を組み合わせたファーストシーンの衝撃がとにかく凄い。血に染まった新宿駅なんて「まさかありえない」ことだと監督も思っていたのだろうが、しばらくしてマンハッタン・WTCは実際に血の海となった。偶然といえばそうだが、この殺伐とした世の中を予見していたのかも知れないね。公開は「911」から半年後の2002年3月。よってこの時点で本作は「ただの想像スプラッタ」じゃなくなっていた。園監督の以降の作品にもこの時の「前後」経験が活かされているのだろう。きっかけは「リング」とか「呪怨」とかそういう類の作品作りだったのかも知れないが、新宿駅のシーンだけで本作はずっと語り継がれると思う。「紀子の食卓」でもこのシーンは繰り返し使われ「いっせーの、いっせーの、いっせーの、せ!」で飛び込む場面は、個人的にもトラウマだ(笑)。特典映像で観る園監督はまだ若い(笑)し、作風も荒削りなところはある。しかし、そのパワーは凄い。ローリー演じる教祖(?)など2010年に観てもしっくりハマるし、「紀子」や「愛のむきだし」とリンクする個所も見受けられる。予告編のコピーから髪の毛がうじゃうじゃ出てくる場面はどちらかというと「エクステ」だったしね(笑)。石橋凌や永瀬正敏は安定感抜群だったが、田中圭や長澤奈央など今をときめく俳優たちが多く出演しているのも見どころである。星は3つです。
いっせーの、せ
★★★☆☆
「いっせーの、いっせーの、せ」新宿駅のプラットフォームから飛び降り自殺した54人の女子校生。所属する高校も別々の彼女たちの不可解な行動に事件の匂いを感じとった黒田刑事(石橋凌)は、あるHPの存在にたどりつく。どうも赤丸は女性、白丸は男性の自殺者数をあらわしているらしい。(このHPに関係なく別の理由で自殺した人の数が含まれているかどうかは不明?)単なる事故なのか、それとも事件なのか?HPの予告どおり自殺者数はどんどん増えていくのだが・・・。
いつものどおり普通の生活をしている人々が、突如として自殺行動に移る様子が何とも不気味に描かれているが、その行動に至るロジックがあいまいなまま放置されているため、単なるオカルト話に終わってしまっている。その辺の反省は園子温監督自身にもあったようで、次作『紀子の食卓』を本作品の続編と位置づけて、クドイ説明を登場人物にさせていた。「あなたはあなたに関係していますか?」おそらく人間の外面と内面のことを言っているのだろうが、人間の外面としかつながっていない世界で内面が死んだところで何も影響ないんだよと、マセガキに言われたぐらいで簡単に自殺する人間がどこにいるだろう。
自殺率で世界トップ10に入る(先進国の中ではの)自殺大国日本。その理由はさまざまで一概にはいえないだろうが、場の論理を優先させるあまり内面を犠牲にしやすい日本人の性向が災いしているのではないか。良かれ悪しかれ強烈な自我を持っている西欧人に比べると、われわれ日本人は内面の鍛え方が足りないのではないか。外界に適応する小細工ばかりに長けて肝心の内面の鍛錬をおろそかにしてきた結果が、まさに数字となってあらわれているのような気がするのだ。「いっせーの、いっせーの、せ」一人で死ぬ(あるいは生きる)ことすらできないその自我の弱さこそ、われわれ日本人が克服しなければならない課題だと思うのだが。