京都は様々な桜の名所が点在しています。なにげない社寺仏閣にも素晴らしい桜が咲き誇っていることがあります。また、思いがけない道に桜並木が続いている所もあり、散歩をするだけで春は楽しい季節です。本書にはカメラマンの橋本健次氏による京都のステキな桜の写真が綴られています。

平安神宮の紅枝垂桜、山科疎水の見事な染井吉野、仏光寺の枝垂桜、原谷苑での八重紅枝垂桜の乱舞の美しさは格別です。哲学の道の疏水の川面に映るその桜の可憐さは、やはり見る者を惹きつけます。桜守の佐野桜と石塔、平野神社の魁桜、龍安寺の石庭と見事な枝垂桜、仁和寺の五重塔と背の低い御室桜、高台寺の石庭に相応しい紅枝垂桜、祇園新橋の白川にかかる桜とお茶屋、今は枝ぶりが悪くなっていますが見事な時の円山公園の枝垂桜、養源院の咲き誇った紅枝垂桜、そして珍しい井出町の地蔵院の樹齢270年の枝垂桜、とプロフェッショナルの感性があれば美しく艶やかに咲き誇った桜を表現できるのだと思いました。

京都の春を彩る桜の奥深さや、まだまだ知らない桜の名所の多さに愕然とします。妖艶な桜もあれば、可憐な桜もあります。日本人の感性と桜のマッチングは、ベストだと言えましょう。

ハンディなサイズですし、比較的薄い体裁になっていますので、春の京都の散策のガイドブックとして、この写真集を片手に京都を堪能してください。小型ゆえ、迫力の点で物足りない場合があります。発色も落ち着いた色調ですので、好みが分かれると思います。たとえ素晴らしい写真集であったとしても実際その場を訪れて目の当たりにした瞬間、思い描いた桜と出会えると思っています。実体験に勝るものはありませんので。