モノトーンの写真から京都の別の顔が見え隠れしました
★★★★☆
雨の京都を美しく切り取るという試みに果敢にチャレンジした個性豊かな写真集でした。京都の写真を撮り続けてきた名カメラマン水野克比古さんの心象風景のような雨景色を十分に観賞しました。他の観光地よりは雨が似合うと言われている京都ですが、それでも雨より晴れの方が良いのは皆の思いでしょう。アマチュア・カメラマンにとって荷が重い天気も、プロにかかるとかくも芸術性豊かな写真を生み出すことが出来ると言うお手本のような作品が並びます。
そんな京都の雨の風情を見事な写真として再提示してくれました。
各写真には、それに相応しい枕草子、源氏物語などの古典文学の一節を紹介しています。和歌や俳句からもそれに似合う景観を選び出し、文学と写真のコラボのような編集意図で構成してありました。新趣向でしょうか。
墨絵のような緑と灰色の嵯峨野の光景は、東山魁夷の絵画の世界のようでしたし、紅葉と水滴と枝の写真からは徳岡神泉の日本画のような風格と風情が感じられました。モノトーンの写真には静けさと幽玄さが漂っています。何気ない景色の移り変わりの中で、その瞬間でないと感じ取れない風景の素晴らしさを上手く切り取り、提示してくれました。
あとがきの水野克比古さんの言葉が素敵でしたので少し引用します。
「いま降るこの雨も一期一会、雨のもたらしてくれた安息に甘えて、ひとときこの雨色世界を漂ってみよう。雨上がりの静謐にきっと新しい出会いが待っている。」
名カメラマンは、素晴らしい詩人でもありました。