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逆接の民主主義 ――格闘する思想 (角川oneテーマ21)

価格: ¥760
カテゴリ: 新書
ブランド: 角川グループパブリッシング
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第三者の審級に代わりうるもの ★★★★☆
著者の主要な関心は、規範の妥当性を担保する超越的な他者(第三者の審級)に代わりうるものを提示することだと思われます。そのような超越的な他者は現代では普遍性を持ちえず、その点ではリベラリズムも共同体主義も原理主義も同じだからです。

著者が提示する、現代において真に普遍性を持ちうるものとは、他者に対する愛に本質的に含まれる過剰性(憎しみ)です。愛に含まれる偶有性が他でもありえるという普遍性を保証するというわけですが、私はこの肝心な点について充分納得することができませんでした。ですから、著者の問題意識も理論の展開もとても面白かったのですが、評価は星4つです。

愛と憎しみとが表裏一体だというのは古くから文学のテーマになっていたことであり、現代の殺人の多くが家族か恋人に向けられたものであることを見ても、愛から生じる憎しみをいかに抑制するかということが主要な倫理的問題である以上、そこに肯定的な意味を見出すとしたら、もっと周到な議論が必要ではないでしょうか。
これじゃ戦う以前にマッチメイク出来ない ★★★☆☆
 いやぁ大澤真幸ってこんなに青臭かったか?「グローバル化は地獄への道に見えてくる。われわれは、この道がそれほど遠くない将来、地獄へとたどり着くことを知っているのに、これしか道がないと思って歩いている」。ふむふむ、その通りだと思う。で、本書はグローバル化に普遍化を対置する試みだって言うんだけど、この“普遍化”ってのが、あまりに青臭くて、理想主義的で、お話にならないくらい説得力がない。俺自身はシンパシー持つけど、“普遍化”ってからには“グローバル化”の人々を説き伏せるだけの力が必要なんじゃないの?「格闘する思想」ってサブタイトルが付いてるけど、こんな一方的にリアルファイト仕掛けたって、相手はケレンミたっぷりのプロレスなんだからさ!これじゃ戦う以前にマッチメイク出来ない。
 「憲法と日米安保とは、相補的であると同時に、拮抗的な関係にある」なんて誰もが知ってるけど、“憲法を実効的なものとするための具体策”ってのが、北朝鮮の民主化、自衛隊の解体って言われても、それが出来ないからみんな困ってるんじゃん?“貧困国への援助は義務”ってのの比喩で、溺れている子供をあなたは助けないのか?って言われても、その比喩に説得力がないもん。こないだのG8の環境相会合で、イギリスが「みな同じ船に乗っている。このままでは船が沈むから、全員で水をくみ出すことを途上国も考えようじゃないか」って言ったら、ブラジルが「船の例えは適切ではない。われわれは気球に乗っている。重い荷物を持つ先進国が荷物を捨てないといけない」って切り返したってのを思い出したんだけど、アナロジーって立場や思想で全然変わっちゃうもので、唯一絶対じゃないんだからさ。
 「第三者の審級」って考え方は、大塚英志の「公共の民俗学」につながる視点で興味深かったけど。
思想を現実におとしたときの喜劇 ★☆☆☆☆
ハーバーマスとデリダを土台に民主主義の範囲、ルールについてロールズやらフロイトやら挙句の果てにはキリストやら継ぎはぎしていく。その場合の接着剤というか視座は「第三者の審級」だ。あまりの「第三者の審級」の万能ぶりに「第三者の審級」を振りかざす自身について「第三者の審級」を用いてみたらとまさにメタ思考の一環として読者を誘うが、それもまた「逆接」「アイロニー」として著者は当然に自覚しておられるのだろう。

ただ、第四・六章を除くそれ以外の章についてはどのようにアイロニカルに読んだとしても、喜劇にしかなっていない。「第三者の審級」に裏打ちされた現実的処方箋が曰く、中国に働きかけて北朝鮮からの難民をどんどん日本が受け入れて北朝鮮を民主化に導く、日米安保終了に加えて自衛隊を解体し部隊X化して他国に派遣、特定アジア諸国で共通の教科書を作成するに、同様の問題を抱えている国々に審査を仰ぐとか、これを真面目に真剣に現実的解決策だと思っているのだとしたらそれはそれで凄い。

とりあえず、日本の最大の仮想敵国は北朝鮮なのですか?日米安保を終焉させるということは仮想敵国を増やしませんか?とか現在ある常任理事国制度はそれこそ立場の代弁者ということで「第三者の審級」として解釈することはできませんか?とかキリスト教を解釈して「第三者の審級」を擁護するとして、そのような概念を内包するキリスト教(宗教)こそ民主主義の敵となっているのではないか?など少しでも歴史、現実を齧っていると途中から喜劇にしか読めなくなってくる。

おそらくそういった意味で読者をこの書に対する「第三者の審級」に誘うのが最大の醍醐味なのだろう。
一冊使った遂行的矛盾? ★★★★★
現代社会が抱え込む困難を、民主主義を超える民主主義を構想することによって超克しようと
する大胆ながらも抽象的な理路に裏打ちされた、社会学者による提言。

先に『不可能性の時代』について「騙されちゃならねぇ」と覚悟しつつも思わず説得されかね
ないその論旨は、健在。皮肉でもなんでもなく、マジに拝聴すべき議論が展開されています。

…でもさ。

深刻な紛争の当事者ならば、媒介者に問われることによって必然視していた先験的選択を改め
て偶有性として再発見する、とか言うけど、むしろ媒介者に対する恥辱と怨嗟が蔓延するんじ
ゃないかしら?
だって「問われる」ことは「恥ずかしいこと」なんでしょ?

排除される「他者」を媒介にした連帯って、人類学系列の「賎民」と「聖性」をめぐる“伝統
社会”分析の要素を置換しただけでは?。なぜ、それが近代における「民主主義」を超えたこ
とになるんですか?

そうした個別の点以外でも大きな疑問が。
「普遍性の不可能性」を超克する理路が、なぜ、どの著作でも必ず初期キリスト教の寓話に求
められるのかしら。キリスト教の寓話とその西欧哲学の系譜における解釈の蓄積が、なぜ無条
件に普遍的な理路へ通じるものと著者は思うのか。これって、表現の自由を押し付けられたイ
スラム教徒よろしく、個別の共同性と、それを超えた公共性の円環という著者が礎定した現代
社会の困難そのものじゃないですか。

しかしそれでも星5つ。
本当に現代社会の抱える困難を「社会学」が引き受けるためには、本書の水準は最低線だと思
うから。