前作、『横須賀Dブルース』が“街”を舞台に人を描くとするなら、本作品は“旅”を舞台としている。
しかし、よくある紀行文のように旅先の風景を切り取り、描写しただけではない。
山田深夜は、風の匂い、夜の匂い、朝露の匂いが湧き立つ様に縒りをかけ、“人”を芯に、一本の“道”を紡ぎ出す。
人ひとりが持つ一本の道は、必ずどこかで誰かと交差する。
本作品の雑誌連載タイトル、『旅人(たびうど)達の十字路』に、その様が如実に表れているのではないか。
短編の名手は長編も上手いと聞いた覚えがある。
山田深夜の長編をいつか読みたいと思っていたが、それはとうに叶えられていると気づいた。
『千マイルブルース』は、それでひとつの長編作品なのだと。
人は皆、旅人(たびうど)で、その数だけ道があるから、旅は続く。
だから、この長編はまだ終わらない。