ある日ふらっと百閒先生の庭に現れた野良猫のノラ、百閒先生はこのノラを我が子のごとくかわいがりますが、ある日ノラはフッといなくなってしまいます。それからというもの百閒先生は死に物狂いでノラを探し始めます。その探し方と探している間の百閒先生の悲しみ方には、もはや単なる愛情や愛着という言葉を越えて、ある種の執着とでもいい得るような鬼気迫るものを感じます。
この『ノラや』に収録されている猫探しの場面は、黒澤明監督の遺作になった『まあだだよ』の中でも描かれているのですが、映画の中での百閒先生は単なるかわいいおじいちゃんになってしまっていて、この随筆から読み取れるような愛情に裏打ちされた迫力のようなものが伝わってきません。
百閒先生の凄まじい愛情と黒澤映画とは一味違う百閒先生を見てみたい方にはお勧めの一冊です!
この集成には、百間先生がノラに出会う前の作品も収録されていて、とてもよい構成です。個人的には、勝新太郎について語るくだりがいつまでも忘れられません。
(※けんの字が変換できないので間の字を代用しました。)