内容的にはドイツ語教師の五沙弥先生の家に入りこんだ猫が、その家に出入りする人間達を観察するというもので、漱石の『猫』と同じような体裁を取っているのですが、こちらは本家の『猫』よりも小説という色が薄れてどちらかというと人間観察を主題とした随筆という色が濃いようです。
しかし、そういった随筆と小説のあいだのような体裁を取ったせいか、それとも『吾輩は猫である』という本家の枠組みが予め設定されていたからなのか、その理由は定かではありませんが他の百閒の文章に見られる切れや独特の雰囲気がこの本では若干薄れているようです。
どちらかというと、百閒入門者よりは、ある程度百閒の文章に親しんだ人に対して、よりお勧めできる一冊です!