「列車での旅にこだわらず・・・」とかいたすぐ後でこんなことを書くのは何ですが、この本の中で私の個人的なお勧めは「九州のゆかり」と題された少し長めの随筆です。これは百閒先生が『阿呆列車』で九州方面に旅をしたときの記録をまとめたものなのですが、訪れた土地それぞれでの出来事が簡潔にまとめられていて、あたかも情景が目に浮かんでくるようです。
表題作となっている「立腹帖」だけでなく、百閒先生の危ない訓示が読める「時は変改す」など百閒先生の列車に込める思いがぎっしり詰まった一冊です。
話は鉄道だけではないのだが、常に鉄道の話が絡んでくる。
私は鉄道のことは寡聞にしてよく知らないが、
この人が鉄道が大好きなのはイヤというほどわかった。
その上、大人なら黙して語らずというようなことや、偽らざる心境が書かれている。
いい意味で子供のような人である。
汽車の話がやけに多いと思ったら汽車にまつわる話を集めた随筆集だった。