なによりも取材が非常にしっかりしている.ミステリーやファンタジーの類は,地域に根付いた話だから,現地取材が命である.机上で作り上げたやっつけ仕事は,読者にすぐ見破られる.しかし,かつて,ハイランドの真っ只中で,そぼ降る雨に打たれ,霧に包囲されながら,ようやくたどり着いた湖畔の廃城で,2時間前とは打って変わった陽光に出会った経験を繰り返してきた身には,本書のどのページにも,この土地を愛する著者が,こまめに歩いて拾った話だけが描かれていることがよくわかる.
だから,私と同様の中年のおじさん方も,ミステリー,ファンタジーという言葉から,女子供の本と,いかにもおじさん風の軽率な判断をするなかれ.スコットランドが,年齢,性別を問わず,多くの人を魅了すると同様に,おじさん方にとっても,この本は大いなる魅力である.