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桜島・日の果て・幻化 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,296
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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戦争という極限下でも戦後の混乱の中でも、内面を凝視しつづける作家の冷徹な目 ★★★★★
 この文庫本には、動かぬ巨大な山を仰ぎつつ、死の恐怖に懊悩する暗号兵を描いた公式デビュー作『桜島』、若年士官からリンチされる同僚を見つめる兵卒の内奥を描いた『崖』など、戦争文学三篇と、戦後に材をとった『蜆』など二篇が収録されている。
 島尾敏雄氏はその特異な体験から、現実世界に対する違和感と収束不能な混乱を繰り返し書いたが、梅崎春生は舞台が戦場であれ、日常生活であれ、生死のあいだで揺れ動く、自らの内面を執拗に凝視しつづける。
 たとえば、壊滅状態の孤島の旅団から脱走する下士官の話『日の果て』では、「人間の美しさ」と「戦野に於ける破倫」の板挟みとなった下士官の心理の変遷が、異様な迫力で描き出される。ところが、その視線は怖いほどに冷徹で、混乱もにごりもなく、不思議な静穏ささえ伴っているのだ。
 とりわけ、食糧難の大混乱の中で、徐々に自分を失っていく男の内面を克明に描いた『蜆』は衝撃的だ。「日本人の幸福の総量は極限されてんだ。」直截にこの絶望を吐露させる精神の、ある種の強靭さは、いつまでも忘れられそうにない。
梅崎文学の最高到達点 ★★★★★
『幻化』。作家・梅崎春生の最高傑作にして、戦後文学の極致ともいうべき名作。
多感な10代に読み、全身の細胞がさわさわと振動するような感動を味わった。
あれから何度も読み直しているが、そのたびに胸に迫るものがある。
無駄に人生を重ねた50代の私には、一層この小説の価値がわかるような気がする。
「生と死」を扱っているが、ストレートではなく、
畝っているようで、歪んでいるようで、痺れているようで、どこかが狂っているような
奇妙に美しい風景が描かれる。東京の病院を抜け出した主人公・五郎が
枕崎や坊津を漂泊し、過去の自分やしその分身のような人々と接し、最後に阿蘇山の火口に至る。
美しいが、白日夢のような景色に現実と非現実が交錯する。
物語は小さな揺ればかりなのに、ひとつひとつが印象的に刻まれていく。
「死の淵」を廻る最後の場面には、張り詰めた緊張感があり、曳きこまれる。

題名の「幻化」は、隠逸詩人・陶淵明の「人生は幻化に似て、終には当に空無に帰すべし」から
引用したという。本作品名を梅崎は「げんか」と読ませるが、
本来の仏教用語では「げんげ」と発音するのが正しいらしい。

紛れもなく「戦争」「戦後」をテーマにした本作が、
平成22年の今日にも耐えうる豊潤なディテールを含み、
現代人の内面を先取りした“あいまいな狂気”を扱っていることに驚く。
若い人に読んでもらいたい名短編小説だ。
支えを失った人間のゆくえ ★★★★★
 戦争は人間を狂気に追い込む。そしてその狂気はときとして味方であるはずの同僚や部下に及ぶことがある。「桜島」はまさに上官の狂気を描いた作品であるが、戦争の悲惨さ、愚かさを訴えるだけではなくて、戦後の日本人のかなりの層にみられた、価値観が崩壊したあとの無気力についても洞察を要求される作品だ。このあと、主人公の上官はどのようになってゆくのだろうか。「カムカム・イングリッシュ」を操り、こんにちの歴史教科書派から「国の誇りを失うな!」と糾弾されるような人間になっていったような気がしなくもない。著者も最後はアルコールにのめり込んでいったと妻が語っているが、やはり戦争で正気を破壊された犠牲者のひとりだったのかもしれない。
中年男の心の揺らぎ ★★★★☆
「幻化」がいい。戦後、精神障害で居場所を失った中年男が、自分の過去や社会との接点を求めてさまよう。自分の感情のゆらぎに戸惑い、怒り、わらう。