巧緻をきわめた昔話の物語
★★★★★
これはまた大変に凝った作品である.その源流は著者のデビュー作 '千年の黙' 第二部で,一度世に流出してしまうと作者にも手が出せない変容を遂げるのが物語というものだ,との作者紫式部の苦い思いにある.全六章の内,始めの四話は時も場所も違うが,深山 (ミヤマ) の不思議を語る昔話で,最後の二話は登場人物たちが直接出てきて演じる深山の話である.但しよく見ると二つの話の間にはまた時代差がある,と言う有様で,徹底的に複雑な構成を持つ.舞台は架空の国 (固有名詞に日本語が用いられる) で,時代は中世.国のまんなかを多分南北に山深い山脈か南北に細長い巨大な山塊がある.この深山に住む謎の人々を中心として昔話が語られ,話が書かれる.それが私に与える感じは,深山が与える古代的恐怖である.そうして子供たちの描写を通じて著者の魅力的な人となりが伺え,後味は一寸心配もあるけれどまあ爽快.'千年の黙'未読の方には,それを先ず読んで置かれることを推奨する.