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水底の歌―柿本人麿論 (上) (新潮文庫)

価格: ¥620
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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2005年10月25日 第9刷発行分
「歴史ミステリ」のような「柿本人麿考」 ★★★★★
本書の存在を知ったのは、随分前のことになります。
昭和55年(1980年)、その年の江戸川乱歩賞受賞作「猿丸幻視行」(新装版 猿丸幻視行 (講談社文庫))を購読したところ、その巻末の参考文献欄のトップに掲載されていたのが、本書でした。

最近になって、歴史関係書物の著作リストをネットで観ていたら、「そういえば、あの時の本ではないか」と本書が眼に止まり、読んでみることとした次第です。

その印象は、「猿丸幻視行」と同様、いやそれ以上に「歴史ミステリ」と呼べる作品なのではないかということです。
もちろん、本書が「学術論文」でありフィクションではないことは承知していますが、それでも「歴史ミステリ」と呼びたくなってしまいます。

本書の構成は、「第一部 柿本人麿の死」と「第二部 柿本人麿の生」から成ります。

第一部では、柿本人麿の終焉の地である「石見国の鴨山」を「島根県邑智村湯抱の鴨山」だとする「斎藤茂吉」の説を切り崩すことで、柿本人麿の悲劇的な最期の姿を浮き彫りにしていきます。

次の第二部では、定説となった人麿像を作り上げた、江戸時代の国学者、「賀茂真淵」への反論により、旧来になかった人麿像を推論していきます。

斎藤茂吉に対しては、「詩人の直観が導いた執念による説」、賀茂真淵については、「【古今集】の序文の一部を自分の説に沿わないからと改ざんする許せない行為を行った」と非常に手厳しいですが、「祟り神」をベースとした著者の人麿像に関する推論は、私には自然に受け止めることのできるものでした。

また、論の進め方も、一気呵成に突き進むのではなく、時々立ち止まって論点を整理したり、前に引用した古文書を再度引用するなど、「復習」をしながら論説していくスタイルで、こうした点が、普段古文に接していない一般の読者にも広く受け入れられる作品となっている要因ではないかと思います。
哲学者梅原猛氏が従来の定説を否定し、歌聖柿本人麻呂の死の真実に迫る雄大な大作である ★★★★★
これは、「水底の歌」(上)を読み終えた段階の批評です。まず、梅原猛氏が歌聖柿本人麻呂の死の真実に迫るにあたり、従来の定説を打ち壊すその激しさに吃驚した。まるで推理小説を読むような意外な展開も、そしてその面白さも併せ持つ。因みに、小生は正直まるで推理小説がきらいな性質なのだが、この大作は特別である。歴史の真実を求める言わばノンフィクションの仮説であり、従来のどの定説よりもより古文書に矛盾しない説明の整合をとり、しかもさらに意義ある解釈の成立を期すものである。

題名の「水底の歌」が暗示しているように、詩聖柿本人麻呂は時の支配者により流罪の身とされ、無念にして海の藻屑と消えたという仮説である。哲学者梅原猛氏が万葉集などの古文書における従来の定説を次々に否定してゆその論理的展開は、これが哲学者の論理的思考法かと圧倒される。「水底の歌」(下)を読むのも、至極楽しみである。因みに、古文書からの引用部分に少々読み辛さがあるが、展開の面白さのために問題とならない。
水底の歌(梅原猛) ★★★★☆
昔図書館で借りて読んだのを今度は購入して読み返しています。この本から万葉集を開き、また古今集を開き最近は古典文学者になったような気分です。
それにしても梅原先生の研究熱心さには恐れをなします。やはりあれくらい本を読みこなさなければ文章が生まれないのですね。「作家」という人々はみんなそうなのでしょう。今更ながら自分の勉強不足を見せ付けられています。
独創的な歴史観から見た人麻呂論 ★★★★★
作者は哲学者として名を成していながら、歴史の謎に次々と挑戦する変り種。「怨霊史観」の提唱者として知られる。その作者が柿本人麻呂の謎に挑む胸躍る作。まず斉藤茂吉が比定した人麻呂の死地に異論を唱える。これ自身は、茂吉の論自体が客観性に欠けるものであるので、あまり興味を引かない。作者の説も場所に関してはどっちもどっちだ。

問題は、人麻呂の官位とそれに絡む死に方である。紀貫之が書いた古今集の序文に、「人麻呂は従三位」と書いてあるのに、正史である日本書紀には人麻呂の名が出てこない(任官の時とか)。また、そんなに公的に低い扱いを受けていたにも関らず、人麻呂は古今随一の歌人として後世に伝えられ、人麻呂を祭る神社があったりもする(安産の神様として祭られたりもする)。何故か。これを作者独特の発想で解き明かしていく過程が魅力的である。そして、この発想が「怨霊史観」と呼ばれる歴史観に繋がるのである。歴史&ミステリ好きな方に好適な書。
推理小説 ★★★★★
 この本を読んでいて感動したのは 斎藤茂吉への批判である。というか 斎藤茂吉の独裁者ぶりが 痛快に描かれている。梅原猛自身は 茂吉を痛烈に批判していると思うのだが 痛烈と痛快の相似に自分自身笑ってしまうほどである。また ある意味で 梅原猛と斎藤茂吉は似ている と言い切ってしまってもよいのではないかと思う。それほど お二人は確信犯である。

 ということで 本書は実に面白い。柿本人麻呂を主人公とした上質の推理小説であると断言しても良い。その推理たるや実に巧妙で おそらく梅原猛の推論は正しいのではないかとさえ思わされてしまう。というか 今でも正しいと思っている。人間上手に騙されるのも 一種の才能ではないだろうか。