芥川賞受賞作の表題作を含む3つの作品を収めた本書は、『背く子』や『裸』など、九州を舞台にした作品によってみずからの文学世界を築きあげてきた大道珠貴にとって、新境地となる短編集である。
「しょっぱいドライブ」は海沿いにある小さな町を舞台に、34歳の実穂と60代前半の男性九十九さんの微妙な恋愛関係を、語り手である実穂の視点から描く。実穂は家族ともども、長年にわたって九十九さんの人の良さにつけ込み多大な世話を受けてきた。父が亡くなり実家で暮らす兄とも疎遠になる中で、実穂は隣町でアルバイトをしながら独りで生活する日々を送っていた。実穂は地方劇団の主宰者の遊さんと関係をもつが、気持ちは次第に九十九さんに傾いていく。九十九さんの運転する車に乗って、生まれ故郷の潮の匂いの漂う町でデートを重ねる実穂。実穂の揺れ動く感情の流れと九十九さんの関係の機微を、作者の筆は正確に描き出す。30代女性と60代男性の恋愛という枠組みの中に、性や介護や経済の問題が示唆される。読者は、タイトルに含まれる「しょっぱい」に込められた多重的な意味内容に注意を向けるべきだろう。
このほか、中学2年生の不登校の少女と26歳の相撲取りという不思議な組み合わせのカップルを描いた「富士額」、若い女性同士の密着感のある奇妙な主従関係をつづった「タンポポと流星」を収録。現代人のさまざまな関係の有り様を描いた、つまりは「人間」を描ききった短編集である。(榎本正樹)
閉塞感、かな
★★★★☆
人生にゆきあぐねている主人公たち。
作者は、自分を取り巻く壁に向かって絶叫する(絲山秋子さん風に)とか、
迂回路を探す旅をする(川上弘美さん風に)とか、隠された扉を探す(小川
洋子さん風に)とか、そういったことは一切しません。たとえていうなら、
「行き詰ってます。行き詰ってます。」と呟きながら、えんえん壁の中を歩
き回っている感じです。その状況、また主人公の抱えている閉塞感は見事に
表現されていますし、アプローチの仕方も現代的。だからこその芥川賞なの
でしょう。
でしょうが………フツーの読者であるわたしには、ちょっと「しょっぱい」
かな。主人公たちと同じく閉塞的な現実を生きている身としては、本を読ん
でいる時ぐらい現実の外にトリップしていたいと思いました。九州芸術祭文
学賞や芥川賞を狙っている人には参考になるかもしれませんので、星四つに
しました。
こんな世間もあるよ
★★★☆☆
確かに、だるい、寒々とした、元気の出ない、美しさのない内容ではあった。
表題の小説がなぜ芥川賞を取れたのかは、わかりませんが・・・・
が、ある意味印象に残る小説であるのは確か。
お相手の冴えないお年寄りの九十九さんはなぜかバニラエッセンスの匂いがする、など
ちょっとしたところにひっかかりがあった。
私は、本書の3つめの
「タンポポと流星」がよかった。
こんな世間もあるっておもえる人は極少数、
それ以外の人間のほうが圧倒的に多いのだから、
共感が得られなくても、印象は悪くても、著者の小説が読まれることを応援してしまいます。
しょっぱいドライブ
★★☆☆☆
芥川賞…?
タイトルからは期待できたんだけど
この本の良さが全く理解できなかった。
いろんな愛や友情のかたち
★★★★☆
なんで欠点ばかり冷静に見えてしまう相手とデートするんだろう。セックスするんだろう。
なんで支配する・されるだけの関係の友人関係を続けるのだろう。
けだるい毎日の中で一番大切にしたいこと、それは「愛」と「友情」でしょう。たいていの本や映画はそこのところをことさら強調し感動させて涙を流させようとするのに、その「愛」「友情」がこんなにときめきのないものでいいんでしょうか。
この小説は「いいんだ」と肯定しているように思います。こうであるべきという愛や友情の範囲を大きく広げれば、生きることにもっともっと寛容になれるんじゃないかなあと思いました。
たしかにしょっぱい☆
★★★☆☆
けして映画の主人公にはなりえない人々の生々しい日記…という感じ。
結婚しそびれている自分の妹を思い出しました(笑)
大道さんの他の作品のエロエロぶりに比べればまだひかえめです。
同年代の作家なので注目しています。(他の年代の人には?かも)