吉村萬壱はデビュー作『クチュクチュバーン』において、個体としての人間が他の生命や物質と同化・変態し、巨大な集合体の中に溶け込んでいくプロセスを通して、人類進化の壮大なビジョンを初期筒井康隆の作品世界を彷彿(ほうふつ)とさせるグロテスクかつドタバタふう筆致によって描き上げた。芥川賞受賞作『ハリガネムシ』において、吉村は物語の舞台を近未来から現代(1980年代後半)へ移すとともに、前作において顕著だった暴力と破壊のテーマをさらに発展させ、それらをひとりの人間の内に発する過剰な欲望のありようとしてリアルに表現することに成功している。
物語の主人公は、高校で倫理を教える25歳の平凡な教師中岡慎一。アパートで独り暮らしをする慎一の前に、半年前に知り合った23歳のソープ嬢サチコが現れる。サチコは慎一のアパートに入り浸り、昼間は遊び歩き、夜は情交と酒盛りの日々を送る。サチコの夫は刑務所に服役中で、ふたりの子どもは施設に預けたままだが、詳しい事情は明らかでない。慎一はサチコを伴い車で四国に旅立つが、幼稚な言葉を使い、見境なくはしゃぎまわり体を売るサチコへの欲情と嫌悪が入り交じった複雑な感情は、慎一の中で次第に暴力・殺人願望へと変容していく。慎一は、自身の中に潜在する破壊への思いを、カマキリに寄生するハリガネムシの姿に重ね合わせる。
カマキリの尻から悶(もだ)え出る真っ黒いハリガネムシ、風呂屋の洗い場でロゼワイン色の血尿を放つ男、奇っ怪な叫び声をあげる登場人物など、グロテスクな人物や不穏なイメージに彩られた本作は、すべての読者に平等に支持されるものではないかもしれない。しかし、人間の内に発する欲望や衝動をありのままに記述していこうとする吉村の作家としての姿勢は実直なものであり、倫理的であるとさえいえる。
人間の本性として備わる「欲望」の本質に鋭く迫った問題作である。(榎本正樹)
うむむむむむ
★★★☆☆
読み終えた後、物凄く落ち込みました(笑)。
しばらく気分が良くならず、夕食も摂らずに寝ました。
でもこれは自分が理解できないだけで、この作者にはそういった
ある種の力があるんじゃないか、とも思うのです。
前作も読後にすごく凹みましたが、それでも次回作を読みたいと
思いました。今後の活躍に期待しております。
なんでもない日常こそがグロテスクの極み
★★★☆☆
表紙とギャップのある作品
読むに耐えないほどの暴力描写だが、単に
過激なだけではなくその底辺に生きる人の物悲しさを感じる。
ともすると人事じゃないなぁと、ふと思う。
どこかで自分はそこに立つかもしれない。
もしくは気づかす立っていたかもしれない。
実は、日常に隣接してるグロテスク
そういう怖さを感じてゾクっとした。
過激な暴力、性描写部分よりも、主人公がサチコとの旅先で老人にとった行動によっぽどリアリティーを感じて気分が悪くなった。
なんとも「いたたまれない」という感じ。
人が無意識に目をさらして見ないようにしているものがクローズアップされている。読後感は、、、ヨクナイ。
えええ……
★★☆☆☆
前作であれだけぶっ飛んだ異常世界を展開してくれた作者だけに、現代を舞台にしたこの小説では一体どのようなものを描いているのか非常に楽しみにして読んだんですが……^^;
なんだかいろいろな部分で中途半端なままで終わってしまったように感じました。
まず一貫して登場人物の行動の理由付けが甘すぎるように感じました。特に主人公の行動には暴力衝動という言葉だけでは理解に苦しむようなものが多すぎたような気がします。
まあ前作があれだっただけにそんなものすら吹っ飛ばしてくれるのかと期待して読んでいったのですが、結局のところ最後までもやもやしたまま終わってしまいました^^;
またロゼワイン男など印象的な事柄が色々描かれていること自体はいいのですが、それが結局のところ主要人物にはほとんど影響を与えておらず、話をもっと練りこむべきだったのではないかと感じてしまいました。
こういう部分においても中途半端な感じは拭いきれませんでしたね^^;
また、前作同様オーーーエッ!!!という残酷描写のオンパレードだった上に、今作ではそれが現代を舞台にしていることもあって衝撃度は今作の方が高かったです。まあドSの人やドMの人ならば喜んで読むことが出来るのでしょうが……。
しかしそういう部分はかなり完成されていると言えると思いますし、「もほもほ」と笑うサチコなど細かい部分でのユーモアが前作から引き継がれていることもありますので、本来よりも★は一つ多く付けさせていただきます^^
ただ小説としてはかなり中途半端だと思いますし、正直期待を裏切られた感は強く残ってしまいました……^^;
これはちょっとキツイっす。。。。
★★☆☆☆
残念ながら私には理解不能の世界であります。。。。
芥川賞。。。。なのか。。。。
著者には悪いが酷い
★☆☆☆☆
人間のゆがみを描いたつもりなのだろう。
そこにセックスや暴力の描写を交え、新感覚で奇才という賞賛を得たかったのかもしれない。
しかし、そこには吐き気をもよおすような内容しか感じられなかった。
人間の陰の部分は、そんなに単純ではない。