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「失われた10年」の真実―実体経済と金融システムの相克

価格: ¥2,940
カテゴリ: 単行本
ブランド: 東洋経済新報社
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経済には人間の心理が深くかかわってくる。 ★★★★☆
 実態を見失った金融,金に目がくらんだ投資家たち。しかし,いったん動き出したバブルへの道は止めようがない。
 金融商品化証券は債権のリスクを分散させるという売り手のメリットだけがクローズアップされて,回収不能のレベルまで達していたにもかかわらず販売され続けていた。
 高度経済成長期のシステムが金融規制緩和によってメインバンクがなくなり,企業と銀行のかい離も進んだ。
 金融資本主義が進んだこの社会,互いが支えなくなっているのがよいことなのかよくないことなのか。いずれにしろ,社会が,国が国民を支えてくれる棒が細くなっているのは確かなようです。自分自身が資産をどう管理維持増加させていくか考えなければならない時代に気づかせてくれたような気がします。
銀行や企業の行動からの実証的説明 ★★★★☆
著者はバブル崩壊後の時期の金融・実物経済について考察する前提として、高度成長期及びバブル期の銀行・企業行動について、実証的な検討を行いつつ、モデルによる説明を試みる。したがって、回帰分析やマクロ経済モデルの一定程度の理解が必要となるが、苦手な人であれば記述のみ読んでも理解できなくはないだろう。

高度成長期には、政府及び銀行は低金利政策をとることにより、重厚長大産業に重点的に融資を行うことが可能となり、これが日本経済の急激な発展につながった。この時代に確立した護送船団方式によれば、破綻した金融機関は別の金融機関により合併・救済される(救済する側も店舗数の拡大などメリットがあったのである。)。

貿易黒字に伴う対外純資産の蓄積により、金融の国際化・自由化の圧力が高まり、都市商業地の地価が高騰するとともに、資金調達の手段が多様化した大企業は資本市場から直接資金を調達するようになった。貸出先の新規開拓を迫られた金融機関は、不動産関連産業や家計への貸出を増やしていった。

不動産融資規制によりバブルが終焉すると、金融機関の貸出債権が不良化することとなる。不良債権が増えると、なぜ経済が収縮するのか。ひとつには、銀行の自己資本が毀損されることにより、貸出及び債権需要が減少し、債権金利が上昇する。これが設備投資の減少をもたらす。もうひとつは、貸出の減少により資金制約に陥った企業や家計が設備投資や消費を減らす。さらには、企業や家計の観点から見れば、不良債権は過剰債務であるため、資産効果で支出を抑えるため、さらに収縮することとなる。

こうした状況が長引いた原因として、著者は、高度成長期に形成された金融行政(護送船団方式)に代わる新たな破綻ルールを策定するまでに8年近くの歳月を要したことが「失われた10年」の最大要因であったと指摘する。したがって、ゼロ金利政策や量的緩和政策といった金融政策よりも、「金融再生プログラム」による不良債権比率の減少が、経済回復の原因であったと主張する。

決して読みやすいとは言えないが、マクロ経済学の枠組みを使って日本の戦後経済を理解する上では手堅くまとめられていると思う。
小川マクロの集大成 ★★★★☆
この本は、小川氏の前著、北坂氏との共著の分析に、その後の研究成果を加え、戦後の金融を一貫したストーリーとして描いた一般向けの本です。

この本の特徴は、一人の経済学者がこれまでの自分の研究論文に基づく分析を一般向けに説明していることです。単独の著者によって書かれているので、ストーリーが一貫していて非常に明快です。また、一般向けでありながら、しっかりとした自身の研究論文をベースに書かれているものも、実は多くはありません。一般向けですが、多くのエコノミストの本のように見た目だけの実証ではなく計量手法に基づいているので、回帰分析の読み方くらいの知識は必要です。

内容上の特徴としては、資産市場、金融市場重視を重視し、特に、原因としての不良債権を非常に重視していることでしょう。この説は必ずしも有力なわけではありませんが、この説を採らない在野のエコノミストもこの本を乗り越える必要があるでしょう。

理論の説明の仕方や推定結果からのインプリケーションの引き出し方に疑問が残るところもありますが、熟読するなり基論文に当たるなどすればさほどの問題ではありません。ミクロデータを用いて実証分析を重ねたとても貴重な研究だと思います。ただし、すでに論文で氏の研究をフォローされている人にはあえて読む必要はないでしょう。

経済論戦の位置づけで読むと、突っ込みが欠けていて不満が少なからず残り、この時期に出される一般書としては残念なところではあります。ろくな研究もせずに悪口だけ盛んな手合いよりはマシかもしれませんが。