初のDJ・クラシック・コンピレーション・アルバム
★★★★★
橋本徹氏はこれまでも「ジェット・ストリーム」の中で静かなピアノ曲を幾つか用いたことがありましたが、いよいよ本格的なクラシックのコンピレーションを登場させました。氏の活動は常に、同世代の私たちにとって、年齢と共に変遷する嗜好の一歩先に歩調を合わせた、水先案内人の役目を果たしてくれます。
この作品も他のシリーズ同様、耳当たりの良い音をスムースに繋いで、全体として統一感のある編集盤として仕上がっていますが、かつてこのような視点で、つまりDJ的な感覚でクラシックの楽曲が編纂されたことはなかったのではないでしょうか。
通常クラシックを編集したアルバムでは、曲間のブランクをたっぷりとって曲毎の独立性を重視した作りになっているように思いますが、このCDでは選曲に滑らかな連続性があり、全編ピアノ・ソロということも相まって、まるでアルバム一枚が大きな流れを構成する一曲のように、いつの間にか時が経つのを感じます。
その中で、はっとする繋がりの意外性があったり(例えば、ずっとピアノ・ソロ曲が続いた後に、突如沸き起こる聴衆の喝采や、静かに立ち上がってくる弦の調べなどには、ゾクッとするような編集のマジックを感じさせられます)、突然馴染みのある旋律が流れてきて耳を傾けたり、ということがまた魅力となります。
これはポーランド出身のピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインの主に'60年代の演奏を集めたものです。今回の内ジャケにはマダム・ムウィナルスキなる人物が登場しているので、私がここで収録された音の印象を述べたところで野暮というもの。とはいえ、子息ジョンが父の音楽に触れた箇所を引用すると、「演奏が決してセンティメンタルに陥らない」「まるでピアノが歌っているかのような呼吸感」「演奏はごく自然に、流れるがごとく」。第一弾としてルービンシュタインが選ばれたことは、こういったシリーズとの共通性が所以でしょう。