江戸の読者のように、「八犬伝」を読む
★★★★★
この本が素晴らしいのは、化政期の江戸読者が、どんな読み方を「八犬伝」に対してしていたのかを、示してくれたところにあります。
筋を追うだけでも、「八犬伝」は楽しめるのですが、馬琴がどんな“仕掛け”をこの小説に入れていたのかを知れば、ますます面白く読めることを、本書は教えてくれます。小説を読み解く面白さと、それに値する小説の書き手としての馬琴の凄さに驚かされます。
それに、馬琴がその世界観を現す為に、挿絵をいかに大事に考えていたのかに触れ、その挿絵の解説もなされています。そして、その挿絵があってこそ完本であり、当時の挿絵も一緒に載せられなければ、(馬琴の小説の場合)いかに作品の魅力が、伝わりにくいものであるかも説明されています。
古典は、後世の者からすれば、その作品当時の人達の共通認識を共有していない為に、当時の人達が感じた面白さが、分からない部分があったりします。だから、研究者以外の一般読者に分かり易くこういう説明をしてくれるような本書は、貴重だと思います。
犬士は、なぜ八人か?という、素朴な疑問に興味を持たれた方は、ぜひ読んで下さい。きっと、面白く読めるはずです。
八犬伝の新たなる発見
★★★★☆
本書は、1980年中公新書から出た「八犬伝の世界」を増補したものである。
原著は、八犬伝の口絵を手がかりに、南総里見八犬伝の壮大な仕掛けを大胆に絵解きして、話題を呼んだ名著であるが、何故か近年絶版になっていた(なお、本書のあとがきによれば、中公新書版の絶版は作者の意向だったとのこと)。
さて、今回の「完本」だが、増補とはいったが、新たに加筆、書き改められた分量の方が原著そのままの部分よりもはるかに多いし、章立てまでも変わっているので、別の本といってもいいくらい、印象が違う。
殊に、原著のハイライトともいうべき「八犬士の原基イメージは文殊八大童子」という驚くべき新説が、本書では既定の事実のように補強する新たな事実を紹介しながら、本書の前半三分の一ほどでさらりと明かされているのは、原著のその部分に興奮した読者としては、感慨深いものがあった。
本書では、さらに原著にはなかった犬江親兵衛の原イメージ巡る論考など、新たに掘り下げられた部分も多く、読み応えは十分である。
原著、中公新書版を読んだ方も買って損はないだろう。いや、むしろ、中公新書版を愛読した人こそ、まず買うべきといってもいいかもしれない。
もちろん、八犬伝という名前は知っていて、興味はあるるのだけれど、どういう話かよく知らないという人にもぜひ読んでいただきたいと思う。読後きっと、馬琴の「南総里見八犬伝」を実際に読んでみたくなるだろう。私事だが、自分が「南総里見八犬伝」をなんとか読み通すことが出来たのは、中公新書版を読んだからである。
内容的には、文句なく星五つなのだが、あえて四つにしたのは、原著への愛着が深いゆえ。今回の増補では、焦点がぼやけたというか複数になったため、原著のシャープさが失われた点を惜しんでのことである。