山の情景
★★★★☆
もともとは1935年に出たもの。1959年に『尾崎喜八詩文集』4巻「山の絵本」として出たものとは異同があるらしい。
『山』や『山小屋』などの雑誌や『報知新聞』に連載された短文を集めたもの。登山関係の書物としてはありがちな構成といえる。そうした本は、往々にして、似たような内容の繰り返しだったり、内輪ネタだったり、短すぎて読み応えのないものだったりする。しかし、本書は一線を画した出来であった。まず第一に、情景描写だけで山行が語られている点が面白い。自己の内面を省察したり、登攀の苦労を語ったりするのではなく、山の景色が忠実に描写されていくのである。元来、植物や昆虫、地学などに関心のある人物らしく、木々や小鳥、雲の様子などが語られる。その視点と独特の語り口が相俟って、登山文学としては興味深い一冊となっている。
また、あまり高い山、困難な山に挑戦していない点も良い。東京から日帰りで行けるような場所も多い。そのため、雑木林の中を散策するような感覚であって、親しみやすかった。