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ひこうぐも―撃墜王・小林照彦陸軍少佐の航跡 (光人社NF文庫)

価格: ¥1,100
カテゴリ: 文庫
ブランド: 光人社
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小林少佐、ありがとうございました ★★★★★
 私は平成13年の夏に、東京都調布市の多摩霊園に、陸軍飛行第244戦隊長だった小林照彦少佐が眠る墓地にでかけて墓参りしたとき、墓碑に記された没年を見て愕然とした。
 大東亜戦争で、米軍の巨大爆撃機B29相手に、体当たり攻撃まで行った決死の闘志の持ち主が、昭和32年という平和な時代に、どうして殉職していたのか。

 戦後もどこかで生きていて、やがて彼自身の口から語られる帝都防空戦の実相を、映像で見聞きできるのか、本として読めるのか、いっそ直接お会いしにゆこうか。いろいろな選択肢を考えていた私にとって、とてもがっくりした記憶がある。
 失意のうちに過ごしている私に、書店で目に留まったのが、小林少佐の奥様が記した、この著作だった。

 あの戦争の終末期。「本土決戦に備え、戦力温存策から、戦闘機部隊は、出撃禁止。違反は処罰」の軍命令が出ていた。敵機の跳梁に任せる防空戦闘機部隊。そんなことがあっていいのか。戦隊全力で、命令を冒して迎撃し、アメリカ軍戦闘機に立ち向かった気性の持ち主。

 ほんとうは柔和な笑顔を持ち、激しさを感じさせない人物だったに違いないと、当時の写真をみながら勝手に考えていた。

 奥様の描写で、私の直感は裏付けられた。戦時中に生まれ、戦時下で亡くした長男のこと。決死の日々を送った戦争末期の日々。戦後は生きるためにいろいろな仕事をしたこと。航空自衛隊の教官として航空機に復帰したこと。日々の記憶をつづる奥様の筆の速度を想像しながら、1日1ページと時間をかけて読んだ。

 1日でも長く、1時間でも長く、小林少佐とともに過ごすためには、この本を読む速度を、遅くするしかないではないか。
 そして、その日も描いてあった。いつもと同じようにでかけてゆく小林さん。平和な時代に、こんな形で別れが来るなんて。
感動の一冊 ★★★★★
私は大東亜戦争での航空戦史が好きではあるものの、特に陸軍飛行第244戦隊について詳しい訳ではありませんでした。同隊のウェブサイトや、何冊かの本で、断片的に知っているだけです。
しかし、この本は、陸軍航空や244戦隊についてあまり知らない人にでもお薦め出来る一冊だと言えます。
この本は同隊の戦隊長として、三式戦闘機「飛燕」や、五式戦闘機を駆って獅子奮迅の働きをした小林照彦陸軍少佐の奥さんがお書きになった本であり、戦記ものと言うよりも、戦中や戦後の夫やお子さん達についての愛の物語だと言えます。
それだけに、妻の目を通して描かれる小林少佐の、夫や父親としての姿をじっくりと堪能出来る感動的な本だと思いました。
女性・妻という立場の方ならではの視線を味わえると同時に、ふんだんに引用された夫の日記も、史料価値が高いものです。
夫の照彦氏は、戦後航空自衛隊に三佐として入隊され、惜しくも事故で殉職されますが、妻である著者にとって、15年に満たない夫婦生活が、如何に濃い時間であったかがひしひしと伝わって来る好著です。
口絵の数枚の写真も素晴らしく、特に戦後の自衛隊時代の写真は私は初めて目にするものであり、驚きでした。米国での訓練時代に撮られた、懇意にしていた米国人家族とのにこやかな写真は、「強くて優しい」照彦氏の人柄が偲ばれます。
とにかく、航空戦記が好きな方、陸軍航空が好きな方には、お薦めの一冊です。