人物評と政策評価だけ
★★☆☆☆
著者は大平の秘書だったのだから当然その偉大さを認識しているのだろうが、いまいちそれが伝わってこない。おそらく著者の思考が多分に官僚的で、テクニックや人間関係が話題の中心になってしまっているせいだろう。25年間も政治家をしながら「私は政治家に向いてない」と言ってみたり大臣時代に語ることが加藤の乱しかない点など、一有権者として淋しい思いがする。
人物評や政策分析だけなら読むべき部分はあるが、全体としては「大平正芳(中公新書)」の方をお勧めする。
閉塞状況にある今こそ読むべき本、再評価されるべき政治家
★★★★★
若手の研究者や編集者がタッグを組んで、戦後外交史の資料を集め、海千山千の国会議員から戦後外交史の証言を引き出すだけで大変だろうに、それをわかりやすくまとめた力量に感服した。
大平正芳の女婿であり、大蔵官僚、秘書官、衆議院議員という人生の大半を大平とともに過ごした森田一が、池田勇人、佐藤榮作、田中角栄ら殿堂級から、谷垣禎一や加藤紘一など現役の政治家まで、歯に衣着せず論評し、大平の辿ってきた道筋を照らし出す。大平首相の不信任案を提出した社会党幹部が、福田赳夫ら一部自民党議員が本会議に出席しなかったため、「このままでは不信任決議が通ってしまうぞ」と焦りまくっていたなど、面白いエピソードも多々ある。
大平の政治手法は、小泉純一郎の対極にある。わかりやすい理想を掲げて革命的に推し進める小泉に対し、意思形成の過程を重視し落ち着きどころを探る大平。一見理想家とほど遠い政治手法だが、死後30年を経て、大平がとても高い理想を掲げ従っていたことが明らかとなる。
迷と閉塞感に満ち、革命家と救世主を待ち望む世相は危険である。いまこそ再評価されるべき政治家を紹介した、時宜を得た一冊。
良心の政治家・大平正芳
★★★★★
政治家の資質として、「清濁併せ呑む」ということがよく言われる。
裏を返せば、「政治家というのは大なり小なり悪いことをするものだ」
と思われているということだ。
この本を読んで、衝撃を受けたのは
政治家には、清濁併せ呑む度量のない人(宮澤喜一など)か
清濁併せ呑むだけの人(田中角栄など)の二種類しかいないと思っていたが
大平正芳は、清濁併せ呑むが、それだけではない政治家だったということだ。
彼がそうありえたのは、現実と理念の二つをともに大事にしていたからだった。
「人間関係全てジェラシー」「人間三人寄れば派閥はできる」と言いながら
暇があれば本を読み、学者のアドバイスを聞き、国民の未来のために政策を立てた。
人気ほしさにテレビに出て、支持率ほしさに耳障りのいい政策をぶつ
いまの政治家は、いましか見えていない。
大平正芳は、つねに未来を見て行動していた。
秘書官であり娘婿だった著者は、大平の良いところも悪いところも
知りぬいているはずだが、没後30年たってなお
「大平との関わりにこそ私の人生の全てがある」と言い切る。
良心の政治家・大平正芳が、いまこそ再評価されるときだと思う。