天才が彩るブラームスの官能
★★★★★
この人、「天才」であることは間違いない。
その音における明度はやや低めに保ちながらの、彩度のコントロールの巧みさは群を抜いている。「夜のガスパール」では、今までの明度が上がりがちな演奏にない、ビビットなラベルの世界を演出した。
レパートリーは某評論家いわく村正の妖刀のあのホロビッツと重なる部分が多い。
タイプ的にブラームスはどうかな、と余り期待せずに聞いたのだが、これほど、美しいブラームスははじめてだ。かれの音楽がここまで彩度高く、しかもリリックに演奏されたのは初めてではないか。時にバッハのように、時にプーランクのような世界さえ想起させる音響世界。ブラームスの純粋かつむっつりとした官能性を最大限に引き出しているといえる。この彼の豊か過ぎる表現力はその輪郭を容易につかめさせない。50歳を前にして、妖刀ゆえの感覚の消耗による、骨董品にならないよう願うばかりだ。