「夜のガスパール」の決定盤
★★★★★
長く廃盤になっていたこの名盤、最近復刻されたのですね。是非多くの人に聴いていただきたく推薦します。
イーヴォ・ポゴレリチは「演奏が奇抜すぎる」という理由でのショパンコンクール本選落ちにマルタ・アルゲリッチが抗議したという
形で知名度が高まり、ことに若い頃は「異端児」扱いされていた人だが、今この名盤を聴き返すと、彼特有の個性的な主張は随
所に感じるもののそれ程エキセントリックな印象は受けない。本盤は彼が若い頃に吹き込んだラヴェルとプロコフィエフの難曲を
カップリングした名演に、これまた評価の高いショパンのソナタ2番「葬送」の演奏を追加したお得盤である。
何と言ってもラヴェルの組曲「夜のガスパール」だろう。高い技巧を要求されることの多いラヴェルのピアノ曲の中でも屈指の難
曲として知られるが、演奏がキマった時の美しさは筆舌に尽くし難いものがある。ペルルミュテール、アルゲリッチ、フランソワ、
野島稔・・・といった大家・名手がこぞって名演奏を残しているが、多くの録音盤を聴き比べて最も魅力的だったのがポゴレリチの
演奏だった。前提となる演奏技巧の完璧さはクリアした上で、「オンディーヌ」のしなやかな水滴を思わせる音の粒の美しさ、「絞
首台」での終始弱音に徹した中での緊張感の持続、「スカルボ」で要求される幅広い音量域の完璧なコントロールと、速いパッセ
ージの箇所でも決してテンポを落とさない一貫したスリリングさ。自分がこの曲の演奏に求める全てが彼の演奏に詰まっていた。
ラヴェルの解説に偏ってしまったが、硬質な音で機械のように無機質に突き進む演奏が曲調と絶妙にマッチしたプロコフィエフの
ソナタ6番や、幽玄でどこか閉塞感が漂う特殊な雰囲気が彼の個性にぴったりと嵌ったショパンのソナタ2番も甲乙つけ難い名演
揃い。まだ未聴の方は、彼の若い頃だからこそ出し得たエネルギーの塊のような演奏を是非試聴していただきたい。