リチャード・ライトの自伝小説
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黒人小説家リチャード・ライトの自伝小説。1908年に南部に生まれたライトが19歳で北部へと移住を決意するまでを描く。黒人コミュニティに育ったライトが、初めて「人種」を意識した瞬間。南部黒人社会の貧困。日常の様々な局面で見られる人種隔離の現実。南部白人のステレオタイプを自ら内面化して演じ、白人と事を構えないよう「南部の暮らしをわきまえ」、どこまでも従順に徹しようとする南部黒人のメンタリティ。そのような南部に絶望し、反発したライトの、北部への憧憬。ライトの経験には、20世紀前半のアメリカ南部社会の現実が凝縮されている。読み物としても非常に面白く、上下巻にわたって一気に通読できる。アメリカ南部の現実を知るうえで格好の一冊だ。
戦前の黒人の人生を描いた自伝的小説
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自伝といってもよいのかと思いますが、David Copperfieldに比べると、ほとんど自伝と思います。
1908年に南部で生まれた黒人少年がどのような生活を送り、自我に目覚め、自由な北部を目指して、シカゴで共産党と出会い、如何に幻滅していったかが、分かりやすい英文で生き生きと描かれています。
懸命に生きた少年時代と異なり、後半のシカゴ時代は共産党との出会い、葛藤がテーマで、少し重たく感じましたが、共産主義者の組織の描写が、日本の戦前の非合法時代の共産主義者の組織・人間関係や、つい30年前の学生運動・内ゲバ時代の描写と微妙にダブって感じられました。
小説に出てくるアメリカの黒人関係の歴史を少し書きますと、おじいさんが参加した南北戦争が1865年に終了し、解放後の黒人に対し人種隔離政策をとった南部のJim Crow Systemは1876年から1965年ころまで続き、南部で実質的に黒人から選挙権を奪った文盲テストは1877年ころから1965年、1970年に連邦法で禁止されるまで続いていました。また、作者自身がそうであるように、多くの黒人が、投票権があり子供の教育も可能な北部中部西部へ移住したGreat Migrationでは、1910年から1940年の間に160万人が、1940年から1970年までに500万人が移住したそうです。
同様な黒人のつらく厳しい子ども時代を書いた作品としては、1969年に出版された「I Know Why Caged Bird Sings」は黒人女性の子ども時代を描いています。
また、映画「アラバマ物語」の原作で1960年に出版された「To Kill A Mockingbird」は白人少女の子ども時代の話ですが、南部の貧しく無教養な白人の生活と、さらに虐げられていた黒人の生活が描かれています。
いずれも読む価値のある小説だと思います。
これがわずか100年前の現実であることに改めて驚かされるとともに、我々が今この平和な時代に普通に生きていることが何と幸せなことか、改めて認識させられた
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久しぶりに読んだ小説である。
きっかけは、「医療崩壊」という本の中に本書に出てくる、本人たちはその意思がないのに、白人たちにたきつけられて戦う黒人同士の殴りあいのシーンが紹介されていたからである。
本書は小説というスタイルをとっているが、主人公が著者と同じリチャード・ライトであることからみても、明らかに著者の体験を書いたものである。
そこには、今の時代には想像もつかないような、黒人差別がこれでもかというくらいにでてくる。それも、黒人の子供のまなざしで。それは、黒人を一人の人間としてみなさないまるで動物のように扱っている白人社会である。
そういう虐げられた中にもかかわらず、リチャードは、あくまでも自分の心に正直に、大人たちには迎合しようとしない。
たとえば、学校を卒業するときに総代として演説するときの原稿を校長先生から与えられても、拒否をし、自分の考えた原稿を使うと言い張る場面。
眼鏡屋の配達の仕事をしていてとある配達先に行った際に、であった北部出身の白人から、腹を空かせているだろうからと1ドルを渡されるがこれを断るシーン。
彼の気持ちはただ一つ、人種差別と偏見の渦巻く南部を飛び出し、北部に向かうこと。
そのために、メンフィスで出会った下宿屋の娘からの誘惑も断り、食事も切り詰め、銀行のロビーで新聞を読んで、わずかなチップも貯めて生活する。
そういう中で、新聞に載った社説から、メンケンという人物を知り、図書館から本を借りるために(なんと黒人は図書館を使うことができなかった)、一番安心できる職場の白人に頼み込んで、図書カードを借り、新たな世界を知ることになるのである。
そうして、ようやく貯めた金で、病弱な母と弟を呼びシカゴへ旅立つシーンで終わっている。
なんと、このときリチャードはまだ19歳である。
これがわずか100年前の現実であることに改めて驚かされるとともに、我々が今この平和な時代に普通に生きていることが何と幸せなことか、改めて認識させられた。
リチャード・ライトの自伝的作品
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リチャード・ライトの自伝的作品です。まずはじめに私の持っているこのVintage Classics版というものは、ひょっとしたら短縮版かもしれません。(未確認ですが評論を読んでいてない部分があります)ですので大学等の授業で使う方は気をつけましょう。内容を予想どおりと言うか1920〜30にアメリカ南部において黒人として生きるというかどのようなことなのかを力強い文章で書いています。私としてはこのパワーがとても好きなのですが好き嫌いはあるでしょう。また黒人文学の入門や英語の学習としてはとても良いのではないかと思います。
反省しました。
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今まで誰しも人種差別について、学校やメディアなど何らかの形で学んだ事があると思います。しかしそれは社会的見解での情報が殆どではないでしょうか。例えばマルコムXやキング牧師の功績、奴隷制度、パンサー党…。では実際にアフロ・アメリカンの生活の中でどういう差別が起き、その中で彼らが何を考え、どういう暮らしをしてきたのか。これは知る機会がないとなかなか知ることが出来ないことです。私はこの小説を読むまで自分が単なる社会的知識としてしか人種差別を理解していなかったことに気づきました。これはリチャードライトの半自伝的小説ですが、彼の半生を知ることによって少しだけ理解できた様に感じます。人種差別とは、社会現象なのではなく、個人の身に起こっているという事。そして彼らもまた、私たちと変わらない一人の人間なのだという事。改めて感じました。