三菱グループの社員は是非読みましょう
★★★★★
フィクションとはいえ、
著者のバックグラウンド(元東京海上火災取締役)をふまえているので、
とてもリアリティがあります。
・東京海上と三菱自動車の関係(東京海上は三菱自動車から多くの保険料を得ているが、同時に大株主でもあるというグループ内バランス)
・三菱グループにおける力関係(三菱商事、三菱東京UFJ、東京海上、三菱自動車…)
・コンプライアンスと会社の利益・存続はどちらが優先するか
など
大組織の中で昇進すればするほど、
個人の正義感と組織の論理のはざまで揺れる場面は多くなります。
著者も取締役まで上りつめる中で、
ときには主張し、ときには妥協し、サラリーマン生活を送ってきた、
その経験、葛藤、スピリットが作品の中に感じられます。
次は、損保の不払い問題をテーマにした小説を書いてほしいなと勝手に期待します。
一気に読ませる面白さ。でも…
★★★☆☆
同じ作者の「マネーロンダリング・ビジネス」が面白かったので、こちらも読んでみた。
話のテンポがよく、一気に読ませる面白さは評判通りだった。
ただ、釈然としない部分もある。
第一に巨大企業と闘う主人公が、自動車事故の当事者ではなく、その友人で損保会社の社員であるという点。
損保会社の社員がクビを賭けてまで闘うという動機が見当たらないし、伝わってもこない。
主人公が企業の内幕を描くための単なる狂言回しになっていて、感情移入ができない。
第二に自動車の欠陥メカニズムの解明が途中で放り出されている点。
話の前半では技術部が調査を進めているということだったが、結局その原因究明はいつの間にか立ち消えになってしまった。
リコール問題をテーマにする以上、欠陥車の真相究明を最後までして欲しかった。
第三に、問題の黒幕の所まで手が及ばなかったこと。
主人公は黒幕までは辿り着けず、サラリーマン的な着地は、非常に中途半端で読後感が良くない。
結局黒幕には髪の毛一本触れられず、かつ株で巨額の利益を得たという結果は、まるで悪を肯定しているかのような描き方だ。
実在する企業をモデルにして描いているということだったが、リコール隠しのために殺人までして、インサイダー取引で数十億円も儲けるなどという人がいるのか?疑問だ。
警察の捜査や証券取引委員会の監視もあるし、必ずどこかで足が付くだろう。
リアリティがないと思った。
最後には一つのサプライズが用意されているが、あまりにも唐突でSF的な結末だと思った。
ページ数の制限でもあるのか、突然の幕引きという印象がぬぐえない。
「マネーロンダリング・ビジネス」の方が内容も重厚で読み応えがあった。
コンプライアンスとは何か?
★★★★★
ダイヤモンド社の経済小説大賞はいつも注目しているが、今年の受賞作である「ザ・リコール」を読んだ。読み始めてすぐに、三菱自動車のリコール隠し事件をベースにしていることが分かる。車の構造上の欠陥が生じている蓋然性が高いにもかかわらず社会的評価の失墜と多大なコスト発生をためらってリコールを避けようとする自動車会社、自動車会社と共謀して保険料の支払いを抑えようとする損保会社、これらの不正を告発しようとする損保会社の社員の攻防を描いている。さらに、自動車会社、損保会社それぞれが大企業であり、この問題を奇貨として、社内における自らの影響力の拡大を狙うグループが暗躍するが、いかにもモラルの下がった組織にありそうな話で、描写になかなかのリアリティがある。きっと著者自身の損保会社における勤務経験が活きているのだろう。「コンプライアンス」という言葉が一般化して久しいが、この言葉がいったい何を意味し、組織の一員としてどのように行動すべきかということを正面から考えさせられる一冊。
一気に読破!
★★★★★
著者2作目にして大賞を受賞するだけあって、人物描写や話の展開、スピード感をはじめとする構成力に優れた作品だと思います。興味はありながらも、PL法やリコール問題についてその本質を理解することが困難であったが、非常に分かりやすく、好奇心をもって読みすすめることができました。世の中ってあんななのかしら〜と新聞やニュースの見方が変わりそうです。
経済小説でありながら、主人公のカッコよさ(あんな独身いるかなぁ…)や社長の潔さが少しハードボイルド系な気もしました。
いずれにしても、必読の価値あり作品です。
次回作が楽しみです。
良い意味での物足りなさ
★★★★☆
読み始めたら止まらず一気に読んでしまいました。
当事者としての企業のほかに、いろいろな人の思惑が絡んでいてリコールの難しさを垣間見ることができました。
人物描写なども良くできていると思います。
前半と比べて、後半駆け足気味に話が進んでいくように感じられたので星四つです。
上下に分けてじっくり読ませて欲しくなる一冊です。