日常と超常の連続体
★★★★★
「ざらざら」の姉妹編。雑誌連載の22編が収録されている。一話は3枚程度。基本的に一話完結だが、「修三ちゃんの黒豆」「道明寺二つ」は、おかま改めゲイの修三ちゃんと杏子の、「ざらざら」から続くシリーズになっている。それと、小人の山口さんを挟んで3話がスピンオフしながらつながっている。
読後振り返って気付くのは、不思議話が意外と少ないことだ。第一話の「海石(いくり)」が不思議話の代表なのだが、これを冒頭にガーンとかまされることで、この極小短編集全体を、不思議話のように錯覚してしまうのだ。
だが、「海石」(よくこんな不思議な言葉を拾ってきましたね)、恋人のおばあさんの幽霊、小人の山口さん、ドッペルゲンガーくらいしか超常的存在は登場しないのだ。落ち着いて読むと、ほとんどがごく普通のことなのだ。陶芸家にしろ無宿人にしろ、日常の周辺に平凡に存在する。これらを不思議話に読ませてしまうのが、作者の仕掛けなのだ。
それと、川上さん、なんか人生突き抜けましたね。セックスも結婚しない女もあっさりニュートラルに描いちゃうし、タイトルの一つに「きんたま」って…。ちょっと弘美さーん。
抽象画の小品
★★★★☆
ますますの不思議ワールドで、ちょっと仏文学的な、唄ならシャンソンか、絵なら淡い水彩の抽象画か、寂しさも、棘も、大人っぽく、川上ワールドは、素人を寄せ付けない雰囲気も出てきた。一貫して変わらないのは、常に出てくる美味しそうなものたち。哀しさや辛さに人間味を与える効果的な素材として登場する。
人とのおつきあいには、こういう空気感がほしい。なんでもかんでも群れたがることに疲れたあなたへ。
★★★★☆
うすい和紙、あるいはレンジフードにかぶせる白い網上のシート様のものがいつも体のまわりにあって、普段はひととは密着せず、無用に傷つかないような仕様になっている。必要な時には自由に取り外しできる。そんな人間界があったらいいな、そんな世界をみせてくれる。冷たくもなく、熱くなく、かといってぬるいわけではない。体温にあわせて適温。修羅場でも不快でなく心地よい。少しミントの香りがするような不思議な空気が作品全体を包んでいます。
文字の絵本
★★★★★
川上さんの作品は好きで良く読んでいます
この本は、川上さん独特のセンス「文字の絵本」そのものです
「ひらがな」が多い分、やわらかい感じに受けるストーリーも、結構トゲがあったり、大人しか理解できないエロがあったり
気負わず「たらりん」とした気分で読める小説
読み終えた後も「たらりん」とした妙な心地よさが心に残る
大人にしかわからない、川上ワールドの「文字絵本」オススメです
ようこそ、ひらがなワールドへ
★★★★☆
雑誌「クウネル」に連載していた短編をまとめた一冊。一作目『海石』の書き出し「あたしたちは、穴に住む。」で一気に川上ワールドへ。
「ちかぢか」とか、「小わきにかかえた」とか、あえてひらがなを多用することで独特のタッチが生まれ、そこに登場する人魚のような生物やコロボックルや、どこにでもいそうな普通の人の心の動きが丁寧に描かれている。ジェットコースターのようなエンターテイメント小説も楽しいけれど、会社や学校でなんだか疲れた日の夜に一編ずつ読んでいくとなんだか心地よく眠ることができそうです。