一読してなんとなく面白かったなー、という本ではない。
キャラクターが直面している状況ごとに、思考や心理を丁寧に理解しなければこの作品の面白さが分かることはない。
キャラクターの会話劇やエッチなシチュエーションを楽しむ作品ではなく、綿密に歴史設定が編まれたSLGを楽しむ感覚である。
ライトノベルを読む人の中でも、日本史が好きな人でないと正直厳しい作品だと思う。
しかし、読む価値が十分にある良作である。

週末に戦争がある晴嵐学園。その現代の学園を舞台に真実の国盗合戦をやるというのはいい。
そしてあとがきの　”データ安全宣言”　も良心的だと思う。
ただ、その”データ安全宣言”が読者の為の言葉なのか、著者の自己満足の言葉なのか作品を読むと判断に苦しむ。

作品に読み手への配慮や優しさが無い、全く無い時点で個人的にはこの作品は評価に値しない。
どんなにシナリオや登場人物が破綻しているような作品でも最低限その部分は担保しているものだが、
登場人物が誰だか解りづらい。どこで何しているのか解りづらい。
改行が少ない上に漢字が非常に多いので余計に読みづらい。漢数字と英数字の併用等など。
イラストや集英社スーパーダッシュ文庫ということで、騙されて買うと痛い目を見る典型的なパターン。
これを「作品はすばらしいが読み手の力不足で理解できない」なんて言われた日には、もうその作家の作品なんて買わないでしょ。
著者が必要以上に読み手に媚びることはないが、全く鑑みないのも考えもの。
これらを踏まえ、”データ安全宣言”が誰の為の言葉なのか改めて考えさせられた。

個人的にはかなりの確立で多くの読み手に地雷になる作品だと感じるのでお節介だが回避を促したい。
怖いもの見たさか、著者自身が本物と語る歴史データに興味のある人にしか薦められない作品でした。

正直、読みやすくて単純におもしろいストーリーを求める方にはつまらないかもしれない。登場人物いっぱい。その上冠名で呼ぶから、だれがだれだかわからない。どこだかよくわかんない地名もたくさん出てくる。そう言う意味では読者に易しくない小説といえるでしょう。
それでもなお、こいつはスゴイ作品である。
国盗り合戦とは殺し合いではない。敵の目的を理解した上でそれを阻止し、自分の目的を達することである。これを学園という限定された空間の中で再現しているわけである。文章も、かなりの情報量を破綻なく織り込んで読みやすいし、何しろ敬語表現が完璧である。敬語をばっちり使いこなせる作家が、昨今どれだけいることか。悲しいことだけど。
　本気で読み解く決心のあるヒトは、中部地方の道路地図片手に読まれるとよく理解出来ると思う。ちなみに、不破寮は、岐阜県南西部に相当すると思われます。出てくる道（２１号とか２５８号線とか）も、愛知県、岐阜県、三重県あたりの国道に相当します。その辺がわかると、ぐんぐんおもしろくなってくる。知的好奇心が刺激されるというか。ついでに、同著者の「時代劇のウソ？ホント？」を副読本にされると、さらに理解の助けになるかもしれない。
　ただ、残念ながら何を言っているのか理解できず（理解しようとせず）、ついてこれない読者が多数現れるとも予想されます。そして、そういう読者が多分に少なくないであろうことを見越した上で、なお、スーパーダッシュ文庫というラノベレーベルにこの本気の作品を発表した藤原京氏には、本当に頭が下がる思いである。願わくば、一人でも多くの人がこの作品を理解されることを願う。というわけで私的には☆５つ。