これをロールモデルにして道を誤った。。。。
★★★★★
もちろん、自分は団塊世代よりははるかに若いです。でも背伸びしたごく若い頃に読んだこの「劇画」の深町丈太郎のスタイルが「カッコイイ」と思ったところに、結構今の自分に至る「間違い」が有ったのかなあ。。。。と(ま、食えてるからいいんですけど)。考えてみると、70−80年代というのは、まだ周囲を取り巻く人間関係に、義理や人情のかけらが合って、しかも高度成長期特有の「美味しい話」やら「逆転のチャンス」やらが有った頃だと思います。今の平成の世となってみると、これは自分より世間様の方がはるかにハードボイルドです。この世故い環境では深町丈太郎も、大手の興信所で優秀な管理職の道をひた走るか、あるいは本格的に「悪党」になるか。。。。いずれにしろ「銃口に止まった蝶」のごとき優雅な生き方は難しそうです。リアルで考えるなら、丈太郎も62歳。。。「しぶとい親父」ですから、完全にくすんだ生き方をしてるとも思えませんが、いったいどこでどうしているものやら。。。。まだ稼業を続けているなら、この際雇ってみたいような気もしております。
10年がかりで読了しました。
★★★★☆
本作の連載は79年末に始まり、途中で掲載誌を変えて94年まで続いた。で、このREVISED EDITION全6巻は96年〜97年にかけて刊行された。私は多分その頃、最初の4巻を購入して読んだ。
言うまでもなく、「事件屋稼業」ってタイトルはチャンドラーの短編“Trouble Is My Business”(39)の邦訳タイトルを踏まえている。だから当然このマンガも私立探偵を主人公にしたハードボイルド・タッチの作品ではある。舞台は東京。時代は連載の実時間と並行している。
それにしても、この作品では主人公の深町丈太郎が48年生であるのを始め、主要登場人物の多くが団塊世代の周辺に設定されている。そして原作者の関川49年生、作画の谷口47年生。つまりこのマンガはハードボイルドという形式を借り、関川と谷口の年齢を足して2で割った年齢の私立探偵を狂言回しにして、団塊世代の視点から見た同時代の日本の姿を描き出そうという試みだった、と言える。
実は、この作品の5・6巻を未読であることが、ずっと気にかかっていた。それは関川がどこかで、これは80年代の「思想」に自分がどう対峙するかを考えた作品だという趣旨のことを言っていたのを読んで、80年代の「思想」といえばニューアカであったりバブルであったりするのだろうから、連載時期から考えて連載後半が特に該当するだろう、と思ったからだ(この頃、同じコンビで『坊ちゃんの時代』も始まっている)。
その5・6巻を、連載終了から数えれば14年を隔てて読んだ感想の詳細は、さすがにここには書ききれない。さまざまな感慨はあった、とだけ言っておく。
05年、私は未見だがNHK「マンガ夜話」で本作が取り上げられて、そこにゲストで出演した関川から、続編もありうるという発言があったらしい。描かれれば、読んでみたい気もする。
黄金コンビが生んだ『劇画』の傑作!!(最終第6巻)続編は描かれないのか…
★★★★★
‘81年に双葉社から発売された「事件屋稼業」(何度か加筆・再版あり)、’83年以降日本文芸社から発売された「新・事件屋稼業」(一度?の再版あり)の全作品をまとめて、‘96から97年に双葉社から再版されたシリーズである(全6巻)。これで事件屋稼業の全作品が一つのシリーズに収録されたことになる。
関川夏央、谷口ジローの黄金コンビによる『劇画』の傑作である。
物語の設定、当時の谷口ジローの描く絵、登場人物のセリフとユーモアが70年代の濃厚な雰囲気を漂わせている。どちらが先かはわからないが劇画版探偵物語である。
主人公深町丈太郎は私立探偵である。せこく意地汚いが、別れた妻と娘を忘れることのできない、どこか憎めないところのある、とぼけたちょっと優しい中年である。ヤクザの黒崎は哲学的だし、刑事の後藤田は小悪党である。物語は深町が巻き込まれる、あるいは自ら進んで飛び込んだ事件を中心に展開する人間の悲喜劇である。
深町が初めて登場した‘80年頃の谷口ジローの絵は、人物の線も太く劇画的(シリーズ後半には少し線が細くなり現在の絵に近づくのだが…)であり、背景も現在ほど緻密には描かれていない。背景の中に人物が溶け込んでいるかのような現在の画風とは異なり、人物が絵の中心となっている。
このコンビによる「坊ちゃんの時代」は文芸的雰囲気の漂う傑作であるが、このシリーズは『劇画』の傑作である。この作品が最初に描かれてからもう25年以上が経っている。年老いた深町丈太郎も見てみたいものだ。