本棚に置いておきたい本。繰り返し参照したい本。
★★★★☆
最初のページから驚くような事実が示されます。日本人による創作オペラで、日本語字幕が付いたというお話しです。どう展開されて行くのでしょう。
本文は二つの部分から出来ています。前半は、発声を自然科学者/医師から見た解説です。幼稚園から大学、社会人コーラスまで、様々の先生方に教えていただいた、発声法の理論的裏付けを沢山いただきました。一方において、未だ解明で出来ていない事実があることも分かります。例えば「よく通る声」とは何か必ずしも分かっていないようです。
歌手以外の多くの職業が発声のプロとして列挙されています。私は教職に就く人たちが、聞き取りやすい発声法を学ばないのはおかしいと思います。
邦楽の発声について記されています。米山先生が、邦楽と洋楽の差のみでなく、共通点も書いて下さったので大変有り難いと思いました。
脳の組織との関連を示唆されたのは、初版が1998年発行ですから、早い時期の研究ではないでしょうか。
シュタイナーシューレの教育法を見ておられるのは、国際的視野の広さに感心します。
高い声は訓練により、器官の使い方を制御することにより、幅が広がる、しかし低い声の声域は広がらないという指摘は、面白いだけではなく、無駄な努力を避けることが出来るという意味で、有り難いと思いました。
私が全てに満足しているのではありません。フォルマントに関する説明、母音と子音に対する解説は、もう少し振動学的解説が欲しかったと思います。
また冒頭の日本語字幕に対する結論がよく分かりません。
見開きページの音域に関する図は大変有用です。活用させていただきます。
後半は、お付き合いのあった歌手たちのお話しです。それぞれのエピソードは懐かしく読むことが出来ました。
一方に於いて、歌手たちの不断の努力、有名な先生のレッスンを受ければよいとする一部の人たちの風潮など、米山先生の教育に関するご意見をしっかり受け止めました。
以上、後期高齢エンジニアの感想です。この分野の本がどんどん出版されることを熱望しております。