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やさしい死神 (創元クライム・クラブ)

価格: ¥1,680
カテゴリ: 単行本
ブランド: 東京創元社
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人生の落語者……鶴なら落伍の名人 ★★★★★
落語と探偵小説のコラボレーションと言えば、なんといっても北村薫の春桜亭円紫シリーズである。いわゆる「日常の謎」派の代名詞的存在なのだが、作者は「季刊落語」編集長・牧大路シリーズを始めるに当たり、探偵小説的興味を前面に押し出し、独自の「落語ミステリ」を立ち上げた。シリーズ第一作目の短編集『三人目の幽霊』にしてから、かなりの荒業はなれわざを駆使していたが、第二作目の長編『七度狐』ではこの作風をさらにおしすすめ、極限状況設定の下なかなか暴力的に物語が展開した。
 そして本書。シリーズ第三作目は、再び短編集だが、特筆すべきは、収録作品の全てに「殺人」などの凶悪犯罪が出てこないことだ(一部に他の犯罪は出てくるが)。しかし、だからといって、作品が「日常の謎」に鞍替えしたというわけでもない。前作までの結構を引き継いでいるのだ。個々の作品に凝らされる奇矯なまでの奸計。何もそこまで、と思わせることは、あるいは作者の意図かも知れない。ともあれ、確実にいえることは、このあまりにも探偵小説的なこの風景に、「落語家」という人種がいかにも似合っちまってるってことだろう。「芸術家」を扱ったミステリでは、最終的に彼/女たちの狂気が析出される。前作『七度狐』はさしあたりそのタイプだが、本作は、滑稽なまでの手練手管が、人情の機微を浮かびあがらせるという「落語ミステリ」のもうひとつの行き方を示している。「落語家」ほど、人間臭くて、嘘臭い存在もいないのだろう。
不完全燃焼。 ★★★☆☆
落語を素材にしたミステリシリーズだが、噺家を主人公に据えず、落語雑誌の編集者を探偵役に配しているせいか落語そのものへの踏みこみがワンクッション置いた感じで物足りない。探偵役の牧と間宮のキャラクターはなんだか記号的で親近感がわきにくく、何より彼らの会話が「物語を進行させるための説明」に終始していてリズムに乗れないことおびただしい。ミステリは謎解きを堪能するものなのだから人物造型はそんなに重要ではないという考え方もあるらしいが、登場人物に感情移入できなきゃ真相解明の過程を読んでいてもノれないし、ノれなければ最後に解決をみても「そうだったのかぁ!」というカタルシスがない。短編の場合は枚数の制約などもあるのだろうが、ミステリにおいても人物の書きこみは大事だと思う。

そもそも、ミステリとしても人情噺としてもそこそこの出来、というのが辛い。「子別れ」をモチーフにした「幻の婚礼」は明らかに視点の設定に難がある。これは傍観者の視点で語ると焦点がぼやけてしまう話だ。同じ素材を扱った田中啓文の作品(「笑酔亭梅寿謎解噺」所収)がこの点を見事にキめて、謎を解きつつくっきりと二つの〈親子の別離と和解(再会)〉を印象づけているのに比べると、「親」でも「子」でもない第三者の間宮が謎をたどっていく過程は冗漫で、どうしても見劣りしてしまう。

「紙切り騒動」に至っては、読みはじめてすぐにラストがわかってしまって興醒めした。この一篇は、落語好きであればある人物のネーミングだけでサゲが見えてしまうもので、もちろん作者もそれを見越しているわけだが、でもそれじゃミステリとしちゃどうなのよ? と。ネタが割れていても、謎解きのプロセスを面白く読ませてくれるのならこんなこと言わないんですけどね。

ほろりとさせる落語ミステリ ★★★★★
「三人目の幽霊」より始まる落語シリーズの最新刊。
今回は、落語でいえば「人情話」ばかりを集めた短編集となっております。一気にすべてを読んでしまうのではなく、一話読んでは余韻を愉しみ、また一話読んではじわりと感動し、といった具合に読み進めて欲しい一冊です。

落語ミステリなので当然落語が出てくるわけですが、どうしてその噺が出てきたのか、読んでいくと必ず納得させられます。
ミステリと噺の絡みが絶妙です。

今回は、主人公・間宮緑嬢の活躍もあり、そういう意味でもおもしろいです。