そもそも、ミステリとしても人情噺としてもそこそこの出来、というのが辛い。「子別れ」をモチーフにした「幻の婚礼」は明らかに視点の設定に難がある。これは傍観者の視点で語ると焦点がぼやけてしまう話だ。同じ素材を扱った田中啓文の作品(「笑酔亭梅寿謎解噺」所収)がこの点を見事にキめて、謎を解きつつくっきりと二つの〈親子の別離と和解(再会)〉を印象づけているのに比べると、「親」でも「子」でもない第三者の間宮が謎をたどっていく過程は冗漫で、どうしても見劣りしてしまう。
「紙切り騒動」に至っては、読みはじめてすぐにラストがわかってしまって興醒めした。この一篇は、落語好きであればある人物のネーミングだけでサゲが見えてしまうもので、もちろん作者もそれを見越しているわけだが、でもそれじゃミステリとしちゃどうなのよ? と。ネタが割れていても、謎解きのプロセスを面白く読ませてくれるのならこんなこと言わないんですけどね。
落語ミステリなので当然落語が出てくるわけですが、どうしてその噺が出てきたのか、読んでいくと必ず納得させられます。
ミステリと噺の絡みが絶妙です。
今回は、主人公・間宮緑嬢の活躍もあり、そういう意味でもおもしろいです。