第3楽章に「夜の森の世界」を聴く
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ジンマン指揮によるチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団によるマーラー・シリーズの1枚。2008年録音。このコンビはベーレンライター版によるベートーヴェンの交響曲全集を録音したころから注目度が高まってきたが、このマーラーのシリーズもレベルが高く、オーケストラの技術も一段と高まっているように思う。
さて、私はマーラーの交響曲の中では第6番とこの第7番が好きである。どちらも純粋器楽のための交響曲で、合唱や声楽が差し挟まれる作品と違い、マーラーの性質が真っ直ぐに表現されているように思えるし、なにより音楽そのものとしての魅力が凝縮した作品だと思う。第6番が劇性を表出し尽したのに対し、この第7番は「夜の歌」の標題の通り、不安の中にもどこかしら安寧を感じる不思議さが魅力だ。
ジンマンの演奏はきわめて誠実で、王道を歩む。シンフォニックな響きは多層的で、旋律の膨らみをよく活かしている。一方で過度な装飾には至らず、滋味のある響きがこれを支えている。
この交響曲は第2楽章、それと第4楽章が「夜曲」と称されていて、マンドリンの音色など印象的だが、私がこの演奏を聴いたとき、「この第3楽章こそ夜曲ではないのか?」との印象を持った。これは「森の夜曲」である。自然の森。昼の間に光合成を終えた木々が葉が閉じ、夜露をきらめかせる中、夜の生き物たちが「気配」となってうごめいている。聴き手はその森閑たる闇を導かれて歩いていく。様々な気配は時に不気味さを伴うが、全体として森はひとつの生き物の様に静かにしかしダイナミックな活動をやめることがない。
ジンマンの演奏を聴いて、そんなイメージが沸いた。現れては消えるような儚い音色とときおり明瞭さを見せる旋律の配置が不思議な働き掛けをしたようである。暖かさを宿しながらも、自然への畏怖と賛歌に満ちており、この交響曲の1つの醍醐味だと感じられた。