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抱擁家族 (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,155
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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   大学講師の夫は、家政婦の口から、自宅に遊びに来るアメリカ兵と妻とが情事を重ねているとの事実を聞き、ひどく動揺する。彼は、なんとか妻との関係を回復させようと、突然子供たちと家の雑巾がけを始めてみたり、米兵にわざと居丈高な態度で振る舞ってみたりするが、どれも滑稽(こっけい)でみじめなものとしかならない。世田谷に家を新築することを決めたりして、どうにか夫婦関係が修復の軌道に乗りかけたその時、夫は愛撫した妻の乳房から、しこりを感じとる。それは乳癌だった。

   著者は、1955年に『アメリカン・スクール』で芥川賞を受賞し、大作『別れる理由』などでも知られる小島信夫。本書は、1965年発表の、彼の代表作との声も高い作品で、翌年の谷崎潤一郎賞受賞作品ともなった。

   本書は、発表当時の日本の時代背景、高度成長期社会の色合いを強く刻印している。しかしそこで描かれる夫婦や家族の微妙な関係、そしてそれが誰にもそう見えないうちに音もなく崩れていく過程は、驚くほどに現代的と感じられる。何気ない日常にひそむ深淵と不安を、ユーモアさえ感じられる重苦しくない文体で、しかし鋭くえぐるようにすくいとってみせる。重苦しさのない分、読者はかえって深刻な悲劇を目の当たりにする思いがするだろう。

   ぎこちないようでいて、ふとした1文で一瞬にして読む者に深い闇をのぞかせてしまう濃密な文章。実は大胆なほどスピーディーなプロット展開。それらがあいまって、結果、本作は何度読んでもくみ尽くすことのできない豊かさをたたえた、希有な傑作となっている。(岡田工猿)

敗北を抱きしめて ★★★★☆
 素直に物語として読み解き、キャラクターへの感情移入を求めるのであれば、
あいにくながらこの小説は半ば破綻を来しているように、個人的には思われる。
 江藤淳に指摘されるまでもなく主題は明白、すなわち、戦後日本における
アメリカ的なものの浸潤に伴う前近代的な家父長制、パターナリズムの終焉と変質。
「僕たちが外国から受け入れたものは、矛盾をうんでいる。その皺よせは家の中へくるさ」。
 主人公のこの語りこそがまさにこの小説を象徴する。
 それを意識してストーリーに仮託された寓意を読み解いていけば、無茶苦茶にも
見える描写は一転、極めて巧みな相を現すこととなる。

「三輪俊介はいつものように思った。家政婦のみちよが来るようになってから
この家は汚れはじめた、と。そして最近とくに汚れている、と」。
 旧態依然とした「家」を求める主人公にとって、近代的な意識の侵入はすべて「汚れ」と
みなされる。そしてまた、「家」の瓦解は彼自身の人格の瓦解を意味する。
「家の中をたてなおさなければならない」。
 こうして主人公は例えば外と内とを隔絶する「塀」を画策するも、一度「汚れ」に
支配された「家」がもとの姿を回復することなどもはやあり得ない。
 かといって、自らになじまぬ「シキタリ」に適応できるはずもなく、こうして
彼も徐々にその苦悩と狂いを深め、そんな中、病魔が妻を襲い……

 ほぼ同時代の小説として参照されるべき一冊に三島由紀夫『絹と明察』がある。
「近代」とパターナリズムという共通の主題を持ちつつも、いかにもミシマ的な感性から
切り込まれており、これもまた、名作。
前衛でもあった小島信夫 ★★★★★
小島信夫が亡くなった。近年、保坂和志のエッセイなどで高く評価されていたこともあって、この大作家の真価が随分と知られるようになったようだ。当方も保坂の文章に触れなかったら、改めて読み直すこともなかった。戦後の作家では、三島、安部、大江がトップランナーとされていたが、いずれもどこかで読んだような作品が多い。特に前衛と言われた安部公房の作品は『箱舟さくら丸』など晩年の長編に顕著な作り物めいた、安手のSF風がちっとも世界文学ではなかったことに思い至る。『抱擁家族』は違う。何かもやもやとしたものが、読後も後をひく。「カフカ的不安」とはまさにこの作品にこそ相応しい。漂うような、しかも視点が散漫に見える「文学ぽく」ない文体が、一見少しも知的なイメージを与えない。しかし、これこそが小説だという保坂の指摘は誠に慧眼である(『カンバセーション・ピース』はこの域にまで達していない)。遺作の『残光』では、小島自身の日常が創作活動との間で揺曳しているような作風であるが、これには少しついていくのがしんどい。
60年代半ばの、社会の急激な変化への憂いと諦め ★★★☆☆
日本のアメリカ化が本格に進み始めた戦後10~20年の時期の、日本社会が崩壊・変形していく姿を、一家庭の壊れていく姿を通して、象徴的に描いているのが本書ではないでしょうか。その暴力的ともいえる変化の要請は、家庭に入りこんでくる米兵ジョージ(情事?)の存在、最新式の欧米風住宅を建てる、などのプロットを通して表現されていきます。主人公のなすすべもなく押し流されていく様子と、したたかに適応して生きていく子供たちの姿が、時代の変化をなにより雄弁に語っているように思いました。

1960年代半ばの、社会の急激な変化への憂いと諦めがこの小説の底に流れているように思います。その意味できわめて同時代的な小説なのでしょう。今読むと若干鮮度は低いです。21世紀には多分書かれない文章なのではないでしょうか? なぜなら現代には現代の問題が存在するからです。それでもあえて今日的な意義を見出すとするなら、本書はわれわれが抱える近代化のもたらした問題の発露を予見していたということになるでしょうか。

芯から図太い ★★★★☆
一言で言えば「ぶっとい作品」です。安部公房や三島由紀夫のような(この二人、タイプ全然違いますけども)才気走った鋭さは感じませんが、ある種の野蛮さがあります。タバコで言えば「ショートホープ」のように短くて濃厚な味がする作品と言えるでしょう。タバコを吸わない人には判らないでしょうが。

安部や三島とは違って「地味」なスタイルなので一般受けはしないでしょうが、淡々と進んでゆく展開の中に潜む小島信夫の「凄み」に驚かされるでしょう。ただし、文体が古いので取っ付けない人もいるでしょうが。

波長が合えば絶対面白いはず ★★★★★
講談社文芸文庫は少し高いので,心配な人は新潮文庫のアメリカンスクールを味見して下さい.村上春樹も紹介しているように,新潮文庫の中の「馬」という短編が,この本の下敷にあるようです.「馬」や「アメリカンスクール」を読んで面白いと思ったら,是非この「抱擁家族」を読まれることをお薦めします.個々の文体は平易で軽いというか,不思議な感覚です.歌で言うと一般の人とちょっとはずれたキーなんだけどはずしてない,という感じでしょうか.しかし,全体の構成はハードというか,読後はずっしりしたものを感じます.さっと読めるんだけど,結構残ると言うか,とにかく読んで下さい.

僕も何年か前に家を手に入れましたが,その中身の家族はどうなのか,どうしたいのか,そんなことを考えながら読みました.