前二部より宗教的な部分がより強く感じられる作品
★★★★☆
第一部のように主役の少年の成長を追うようなストーリーだが、
奴として育っていく過酷な運命や寺の裏の仕事の様子が暗く、
夜叉神堂という場所や不思議に歳をとらない唯空が、
さらに不気味な雰囲気を醸し出していて、
前の2部以上に悲しみや苦しみに満ちている印象を受けた。
また、すっかり空海は神聖化された存在になっていて、
残した書物まで聖典化されている点が興味深く、
東寺と高野山、他の密教宗派との争いをはじめとして、
奴として「牛」が仕える東寺の僧達の様子や行動などに、
宗教的な部分がより強く感じられる作品になっている気がした。
なお、前の第二部で登場して、不可解だった唯空の正体が判明し、
この3部作における彼の重要性が判り、驚かされるのだが、
さらにもっと深い謎が残ったように感じてしまい、
神秘的というか、煙に撒かれたような読後感を覚えた。