短いが、壮絶な物語である。おそらくは重度の自閉症児と思われる息子のケン。自閉症児に勝るとも劣らない癇癪やこだわり性格を持つ夫のアル。夫婦の間にはどうにもならない異文化間ギャップまであり、摩擦や怒鳴りあいは日常茶飯事である。
自由に生きようとして日本を離れ、アメリカにきた道子が、思春期に入った自閉症の息子に髪をむしられ頭皮まで引き抜かれそうになり、理不尽な夫が絶えず投げてよこす癇癪の受け皿になり、嫁ぎ先のユダヤ文化に個の尊厳まで圧迫され苦しみながら、決して自分を見失わず、母語である関西弁で、強くやわらかく、そしてどこかおかしみさえ漂わせながら、物語っていく。すごい、というほかは無い。
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