「Yの悲劇」を抜いた結末のミステリ
★★★★☆
垂直上昇で持ち直し、本格推理小説として四つ星だが、
文学として五つ星を与えたい。
リーダビリティに優れたエンタメだが、
TV、マスゴミを利用する自称文学者より、
コナリーの文学の方が遥かに価値がある。
権力の監視機構ではなくて、
自らが権力となり、
大衆を煽動して国家国民に害を与えるマスゴミは社会の敵である。
強大な権力を持つマスゴミや資本家に対して、
ボッシュの闘争は完全勝利を得ることは不可能だが、
逃走せずに戦い続ける道を選ぶボッシュはデラかっちょええ!
思想的な面を抜きにしても、
終盤の加速する展開の構成が素晴しい!
終盤の技法を追求すれば、
前衛的実験文学になると思われる。
ガルシア=マルケスを見事な構成力のテキストとして、
教材に選ぶ大学もあるが、
本書も小説家の教科書になるべき見事な構成である。
本格推理小説としてラストの謎解きのシーンも見事にアウフヘーベンしている。
本作を読んでしまったら、
ラストで容疑者を古い洋館に一堂に会して謎解きする古典ミステリが糞に思えてくる。
遂にクイーンの「Yの悲劇」を抜いた結末のミステリが現れた!
「Yの悲劇」を抜いたのなら本格推理小説としても五つ星になるべきだが、
途中のミスリードやミスデレクションにややアンフェア感を抱いたのが減点材料。
面白い小説としては五つ星である。
妻との破局問題がどうでもよくなる圧倒的展開は凄い。
愛などという感情の問題も、
論理の面白さの問題も超克した優れた小説である。
エンタメと純文学の制限を軽々と飛び越えた傑作。
天使のように美しい少女は天国に飛ぶ。
堕天使は地獄に飛ぶ。
メカは何も考えずに上がったり下がったり…。
本書の素晴しさが理解出来ない奴は本を読む必要はないです。
映画観て泣くか、阿呆面してTV見て一生を終えて下さい。
“当代最高のハード・ボイルド”、ハリー・ボッシュ
★★★★☆
“当代最高のハード・ボイルド”といわれる、マイクル・コナリーの<ハリー・ボッシュ>シリーズ第6弾。邦訳ハードカバー発表時のタイトル、『堕天使は地獄へ飛ぶ』が、文庫では原題の『エンジェルズ・フライト』に改題された。
ボッシュは週末の午前2時にロス市警副本部長のアーヴィングからの電話で出動を命令される。45分後、現場であるダウンタウンの短い急勾配のケーブル鉄道、「エンジェルズ・フライト」の頂上停留所に到着したボッシュは、ロス市警を総動員したかのごとき警察車両と警官の多さに目を見張った。
客車の中に横たわる射殺体の黒人男性は、市警の全署員から蛇蝎のごとく嫌われている辣腕の人権弁護士エライアスだった。彼がこの10年間で警官を訴えた数は百件以上。その半分以上を勝訴に持ち込んでいるエライアスは、黒人たちにとっては天使だが、警官にとっては疫病神だった。今回も少女レイプ事件の容疑者ハリスを裁判で無罪にして、逆に取り調べに当たった警官をハリスへの暴行で訴えており、注目の法廷が二日後に開かれることになっていたのだ。
警官の誰が犯人でも不思議でないこの事件、プライベートでも妻エレノアとのしがらみを抱えながら、自らのはらわたを抉りだすような捜査を続けるボッシュの前に、次第に陰鬱な真相が浮かび上がってくる・・・。それでもなおボッシュは、救いのない結末に向かって突き進む。
それにしても、マイクル・コナリーが描くロサンジェルスは、街の濃い陰影が、一匹狼ボッシュの孤独な魂と男の深い寂寥感によって、一層際立ってゆくようだ。「おれにはなにもわかっていない。妻のことも、親友のことも、この街のことも。だれもがなにもかもが見知らぬもののようだ。」