いくつかの疑問点
★★★☆☆
「共感」という心身現象が「脳」のどの部分のどんな機能と関係があるのかを知りたくて読みました。いくつかの疑問点が残りました。
(A)著者は、悲劇的な場面に際会し「共感する」(涙を流す)と「共感脳」(内側前頭前野)が活性化する(血流が増加する)、と言う。
(1)相手の笑いに「共感」して「笑った」ときにも、「共感脳」は活性化するのだろうか?
(2)「共感」していないときでも、「共感性」の高い人の「共感脳」の血流は、「共感性」の低い人の「共感脳」の血流より多いのだろうか?
(B)著者は、「リズム運動」をすると「前頭全野全体」の血流が増加する、と言ったあとで、「共感脳は前頭前野の一部ですから、共感脳を活性化していることは推測されます、と言っている(p.130)。
(1)なぜ「推測」しかできないのか? 直接、「共感脳」(内側前頭前野)も活性化していることが観察できるのではないか?
(2)後のほうでは、「明らかになっています」(p.157)と言っている。変ではないか?
(C)著者は、「共感」成立の条件として、「コミュニケーション能力」(p.25,p.151)、「感動体験」(実体験、模倣体験、疑似体験)(p.25, p.40,pp.64-67,p.152)、「想像力」(pp.64-67,p.148)、「遺伝的なもの」(人間性に共通な資質)(pp.69-70,p.149,p.150)、および「感受性」(pp.147-148,p.182)をバラバラに指摘している。
(1)「共感」成立条件について、もう少し系統的に説明すべきではなかったか?
(2)著者は「セロトニン」による「心の安定化」を「共感」成立条件として強調しているが(p.160)、これは「共感」の問題というよりは「人間生活」一般の問題と言うべきではないか?
以上です。
論拠がなく、論理飛躍・矛盾が多い
★☆☆☆☆
A・「共感」を脳科学の視点で綴るとどうなるのか?
B・その共感性が衰えたことにより問題が起きている。
C・共感性をのばすために、何が良いのか?
本書の中身を整理すると、この3つになると思う。
まず、生物学・医学的な話であるAであるが、基本的に、論拠が全く示されない。ただ、「これはこうです」というだけで物語が展開していまう。しかし、その中でも、明らかに理論飛躍などがあり、信頼が出来ない。
例えば、133頁では、泣くことが良い、といいながらグラフを出してくるのだが、それが何を意味しているのか全く説明がなく、ただ、「何か実験をしている」というはったり以外に機能していない。
また、Cは、著者の他の書と同じように、「リズム運動をすれば、セロトニン神経が鍛えられる」ということを訴えるわけであるが、これについても全く根拠は示されない。ただ、「リズム運動をしましょう」と言っているだけ。別にリズム運動が悪い、とは言わないが、この形で言うなら「リズム運動をすると、筋肉に乳酸がたまる。乳酸がたまると、脳がすっきりする」でも話として通じてしまうのだが…。根拠を示すべきである。
そして、Bの社会問題などは、間違いが多く見られる。
共感性の低下を前提としているのだが、その根拠として挙げる児童虐待などは、児童虐待防止法や社会の虐待への認識が高まったことで通報が増えた、という、むしろ「歓迎すべきこと」である。また、「キレる」ことを挙げるが、言葉の定義が曖昧な上に、凶悪犯罪の減少など、ちょっと調べれば著者の発言と真逆の事実が出てくる。
そういうことについても、全く調べずに書いたことが伺える。
専門分野と称しているところは論拠不明、社会などについては間違い多数。評価できない。
科学者が書いたものとは思えない不見識にびっくり
★☆☆☆☆
著者は自身の道徳的価値観を自分の専門である脳科学(実際はセロトニンに関
する基礎学者)をこじつけて著作の中で垂れ流している、およそ科学者とは思え
ない論理が散見されます。何匹目かのドジョウを狙った編集者のにわか企画に安
易に乗ったのか、新書の読者なら専門知識をひけらかして説き伏せられると思っ
たのかいずれにしても自身の不見識を世間にさらす愚かなことをされたものです。
本書の中に母親にひたすら英語のテープを聞かせ続けた子供がコミュニケー
ション不全に陥ったエピソードが紹介されます。問題は英語のしゃべれない母親
が子供を英語浸けにして言語によるコミュニケーション不全が起こったことと思
うのですが、著者はこの事例をもって子供にテレビをひたすら見せる事は問題が
起こるとが分かるといいます。どこにこの二つの事象に因果関係があるのか私に
は理解できませんでした。また自分の感情をコントロールできない人が多くなっ
ていると、こともなげに言い切っていますが、どのようなデータを持ってそうい
われているのかも理解できませんでした。凶悪事件数自体は30年前に比べ激減して
いますし、生活水準の向上によって日本人はむしろ理性的になっていると私は思っています。
根拠のない現象の原因を、希薄化した家族関係にあると言い切るのはあまりにも
乱暴な論理展開と感じます。
少なくとも学者として専門領域に関して本を書くのであれば、もう少し破綻の
ない主張をしていただきたかったと思いました。