がっかり
★★☆☆☆
著者からの内容紹介と高評価のレビューから読んでみたが、正直期待外れに終わった。誰もいなくなった集落に住み続ける独居老人の話で、自ら社会との関わりを絶ってしまえばこのような結末になることは予想されることだった。道具を取りに昔村に住んでいた者がやって来ると銃を突きつけてもう二度と来るなと空に向けて撃つ。だからあまりにひもじくて近くの村に食べ物をもらいにいくが、誰も出てこないので一人とぼとぼと帰っていくことになる。妻が自殺するが、その後に夫婦の暖かい過去の思い出を振り返りもしないし、自分が妻を自殺に追い込んだのではないかという悔恨の情もない。母は毎晩亡霊として出てきて一緒に火に当たるが、死者特有の青白い顔をしてひと言も口をきかない。それが母と昔の思い出を分かち合っていることになるのだろうか? 村と一緒に朽ちていけるのであれば主人公は本望かもしれないが、村を出て行った人々にもそれなりの理由があったはずだ。
緩やかな滅び
★★★★★
『狼たちの月』が気に入ったので読んでみました。これはさらにいい小説です。
スペインの寒村、アイニェーリェ村に残った老人とその妻、雌犬。妻は孤独に耐え切れず、自ら死を選ぶ。老人と雌犬はとうに喪われた場所で日々を淡々と過ごす。やがて死者と過去が生活を侵食していき、老人は死を迎える準備を始める。雌犬が孤独に侵されないよう撃ち殺し、自らを墓穴に入れてくれる人を待ち続ける。
読むうちに時間の感覚がなくなり、老人が生きているのか、死んでいるのかすら曖昧になっていく。衰退と死を象徴するポプラの枯葉、黄色い雨に晒され、崩壊した村は一つの世界の終焉のように、ゆっくりと消えてなくなっていきます。詩的なのですが簡潔でわかりやすく、言葉を非常に大切にされている作家さんなのだと思いました。満足。
あと訳者の木村榮一氏の後書きも面白かったです。スペインの書店の主人からお薦め本について話されています。やはり国に関わらず読書家の人の話は興味深いなー、と思いました。
降りつのる孤独
★★★★★
木村榮一さんの翻訳なので読みました。いつもラテンアメリカの作家のものを訳しているのにこれはスペインなのね、と軽い気持ちだったのですが、最近読んだ本の中でも特別によかったです。
スペインの廃村になりそうな村に最後に残ってしまった男の人が死んで行く話なのですが、淡々とした静かな寂しさが胸にせまります。ずっといっしょだった雌犬との最後の場面が、孤独な村での生活を共にしてくれた犬にできる感謝の表れと言うのが悲しくて、辛かったです。息子が戻ってきたら違う展開になっていたのでしょうか。
解説も一読の価値があります。
今の日本にこれ程の傑作を書く作家はいるのか?
★★★★★
出会えた事に感謝します。
まず私自身の拙い感想より、柴田元幸氏がこの作品について非常にうまく評されているので、ここに記します。
"沈黙と記憶に蝕まれて、すべてが朽ちゆく村で、亡霊とともに日々を過ごす男。
「悲しみ」「喪失」といった言葉はこの小説には必要ない。悲しみや喪失は、ここには空気のように偏在しているから。
なのに、なぜ、すべてがこんなにも美しいのだろう?"
この小説の持つ美しさを簡潔に表してます。
確かに、大がかりな仕掛けがあるわけでもない、ただ死にゆく男の話なのに、決して陰欝さは感じられないし、安っぽい喪失感は微塵もありません。読み進める程に雨粒の様な(透明だけれど濁り気も感じさせる)言葉達が次々と降ってくるので、心に一つ一つしみ込む文章が沢山ありました。
その詩的な想像力はどこからやってきてどこまで飛んでゆくのか?うーん凄い。
スペインにこんな人がいたんですね。他の著作も是非読みたいです。現存する作家では今一番注目すべき人ではないでしょうか。
ドンピシャ!
★★★★★
装丁と、柴田元幸さんの推薦文?に目を惹かれて買いましたが、読んでびっくり。
とてもすばらしい!しびれました。
朽ちてゆく村の描写が息を呑むほど美しく、そこに取り残された主人公の深い孤独が、
読んでいるうちにじわじわこっちに染み込んできます。
極限の状態では、人は記憶や思い出しか共にすることができない、という残酷な事実に
胸が締めつけられました。
読んでいて、小説世界の風景や、季節の(特に冬)においが
勝手に立ちのぼってくるんだから、たまらない。
自分もその世界に居るような感覚。
そんなにまで引き込んでくれる小説には、
今までそんなに出会ったことがありません。
ある意味危険な読み物です。
個人的には大好きですが、あまりに暗いし、ストーリーに動きが少ないので、
途中で投げ出す人もいるかと思います。でも傑作です。
あんまり勧めたくない種類の傑作です。